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第14話

** 良い匂いで目が覚めた。 自分で眠っていたと把握できるほど、しっかりとした睡眠だったような気がする。 背中が痛くない。 最近はベッドに行くことも面倒で床で眠ることも多かったから、痛みがないのは不思議だった。 首がひんやりとして気持ちが良い。 指で触れると、それはおそらく冷却シートの類のもので、まだ冷たいということは定期的に変えてくれていたのだろうか。 ぼんやりと天井を見つめ、ゆっくりと状況を把握していく。 夢じゃなかったか。 少しだけ高熱にうかされた夢なのではと思わないでもなかったが、 この状況は俺の記憶に合致していた。 左腕に注射用の保護パッドが貼ってある。 どうやら点滴は終わったようだ。 右腕には穴が開きまくっているのに、 左腕は1つの注射痕をこうして保護しているというのが皮肉にも感じられた。 点滴のおかげか眠れたおかげか体調もかなりマシになっている。 響くような頭痛もないし、震えるような寒気もなくなっていた。 「えっ目開いてるじゃん」 ふいに声をかけられ、整った優しい顔が少しだけ驚いたようにこちらを見ている。 分かってはいたことだが、蒼がいる空間にはやっぱり慣れずに思わず目を逸らした。  怜さんの治験に協力するようになってからは、 守るべきものは弟の音羽だけだと決めて他との付き合いはできるだけ遮断してきたし、 こと蒼に関しては、何せ10年前にもう会わない決心をしていたのだ。 「おはよう。今16時くらいだよ。 体調はどう?」 気づけば夕方になっていた。 4時間くらいは眠っていたということになるだろうか。 最近だとこんなにまとまった睡眠は取れたことがなかった。 「……治ったみたい」 「治ってはないだろ」 苦笑する蒼の手が、俺のおでこに触れる。 「まぁでも、熱は少し下がったみたいだな。 顔色も良くなった」 ふっと蒼が微かに笑った。 それだけのことで、熱を帯びたみたいに体がおかしくなるような感覚がする。 「おかゆ出来てるよ。食べられそう?」 「……うん」 “よし”というように頭を撫でられまるで子供扱いされているみたいだと思う。 「またいらない、帰るって言われたらどうしようかと思った」 あんなに拒絶しようとしていたのに、受け入れてしまう自分は弱い人間なのだろうか。 どれだけ突き放そうとしても優しい蒼に強引に休まさせられてしまうから、諦めかけてきた部分もあるのかもしれない。

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