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第15話
「寝室に持ってこようか?」
「……いや、起き上がれそうだから」
体を起こすと少しだけ眩暈を伴う。
ふらつく体を蒼が片手で受け止めた。
「準備するから、座ってて」
ソファに促されて言われるがままそこに腰掛ける。
「しんどかったら横になってても良いから」
ひとつひとつの気遣いがここのところ全く感じたことのないものでどう返事をしたら良いか戸惑う。
これだけかっこよくて優しいのだから蒼と近づきたい奴は五万といるだろう。
「そういやこれ佐山の鞄。
ノートとか全部まとめて持って来たから」
「あぁ…ありがとう」
鞄を開けるとノートや筆記用具が雑多に入れられていた。
慌てて追いかけてきたことが伺える。
ふいに携帯が目に止まりそれを手に取った。
連絡はきておらず、胸を撫で下ろす。
次は良くなった時に報告してとの話だったから、まだしなくて良いだろう。
点滴したことやこの後薬を飲むであろうこと、同級生の家にいることは伝えておいた方が良いだろうか。
薬などは相性もあるからか飲む時は報告しろとは言われていた。
……いや、変に詮索されるのも嫌だし極力やりとりなどしたくはない。
報告しなかったからと言ってバレるものでもないだろう。
「大丈夫か」
不安な顔をしてしまっていたのか、
蒼が怪訝な表情で俺を覗き込んだ。
手にはお盆が持たれ、その上に2つのお腕が乗せられている。
「一応うどんも俺用に作ったんだよね。
佐山は今胃になんも入ってないみたいだから全粥だけど、食べられそうならまだ余ってるしうどんも食べて良いよ」
“どうぞ”と箸を渡される。
飲み物は水のようだ。
お椀からは湯気が立ち上っていた。
「朝霧って料理もできるんだ」
「自炊はするけど、別に凝った料理が作れるってわけじゃないよ」
自炊している時点で十分すぎると思う。
俺はもう最後に料理をしたのがいつかすら分からない。
「……いただきます」
スプーンで一口分すくい、口に含んでみる。
ご飯の甘み、その後にふわふわ卵の優しい味が広がっていく。
ごくんと呑み込むと、それらがすっと喉を流れていくのが分かった。
咀嚼も嚥下も全くもって苦しくないから、
その分味の印象が強まる。
「……美味しい」
お世辞でもなんでもなく、心からの声が漏れた。
「はじめて食べる高級食材を食べた時みたいな驚き方してんな」
例えるなら、そういう感じのような気もした。
手料理を食べること自体がここ最近ではなかったし、
どんな出来合いのものよりも美味しく感じる。
「食べられそう?」
「うん。……むしろ美味しくて本当にびっくりしてる」
「ふーん」
少しだけ照れたような顔で、でもとても嬉しそうな顔で、蒼が笑った。
あぁ、その顔好きだな。
胸が熱くなる。
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