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第4話 1章 美しい青年の秘密
青年は彰吾の話を黙って聞いている。特になんの反応もしない。かといって、上の空でもない。そして、聞いている時も姿勢を崩さない。もう少しリラックスして欲しいとは思うが、まだ無理か……。ひとしきり話すと、その姿勢で聞いているだけでも疲れると思う。
「なんだか俺ばかりが話したな。できたら君の話も聞きたいがね」
「……」
無言だ。やはりまだ自分のことは話したくないのだろう。無理は禁物だ。
「話したくないなら無理強いはしない。ただ、これだけは覚えておけ、俺は君が死ぬのは決して許さないが、それ以外で君の嫌がることはしない。それは約束する。疲れたか? もう寝るか?」
彰吾は優しく言い聞かせるように言うと、青年は頷いた。
青年をベッドに寝かせるて、「おやすみ」と声を掛けると「おやすみなさい」と返した。とりあえず反応がある事に安心する。そして、やはり礼儀正しいのに感心する。
寝室を出ると、自分も寝ることにする。ベッドを青年に明け渡しているから、今晩もソファーで寝る。まあ、当分ここでいい。寝心地は良いとは言えないが、病院の仮眠用のベッドとは大差ない。
青年が安らかに寝られることを願いながら、彰吾も眠りについた。
「俺は今日仕事だから出かける。夕方なるだけ遅くならないうちに帰るようにはするが大丈夫か?」
思惑のある青年は素直に頷いた。その思惑を彰吾が察しているとは、無論知らない。
「昼飯はここにある。一人でもちゃんと食うんだぞ。もし何かあったら、ここを押すとコンシェルジュに繋がるから、俺へ連絡するように頼むといい」
教えながら、スマホを持たせる必要性を思う。服はもう少し落ち着てからだが、スマホがないとこちらも心配だ。
「じゃあ行ってくるから。いい子にしてるんだぞ」
にこっと微笑んで彰吾は出勤した。
一人になった。柏木さんは悪い人ではないみたいだけど、このままここにいるわけにはいかない。生きる意味を失くしたのだから、死ぬ以外ない。それは確かな事。
先ずは飛び降りようとした。それが一番手っ取り早い。というか、それしか思い浮かばない。できれば身元不明のまま死にたい。そう思って身元の分かるものは身に着けていない。
が、最初の思惑は早々と挫かれた。今まで窓の外を見ていなかったから気付かなかったが、ここは二階だった。これでは飛び降りても死ねない。怪我するだけで終わり。下手したら警察にも通報されて全ては終わる。
どうしよう……。ここは何階建てだ? 外へ出て上まで上がれば、何とかならないか? この格好で外へ出れば不審者として通報される恐れがあるが、マンションの中なら誰にも見られないかも……。
そう思って玄関まで来る。そして自分の靴を探すが、見つからない。柏木の靴は何足もあるが、肝心の自分の履いていたはずの靴がない。ためしに柏木の靴を履いてみたが、ぶかぶかで歩ける代物ではない。スリッパのままか……。仕方ない、そう思ってスリッパのままドアを開けて外を伺う。
幸い誰もいないようだ。そのまま外へ出た。非常階段はどこだ? と思ってうろついていると「あの、どうかされましたか?」と声を掛けられて、びっくとした。やばい、どうしよう……。
「いや、別に何ともありません」そう答えて、急いで部屋へ戻った。
声を掛けたのは、管理室で防犯カメラへ映る不審者に疑問を抱いた管理人だった。当然この出来事は柏木彰吾の耳に入ることとなる。
彰吾にとっては織り込み済みのことだった。二階からは飛び降りても無駄だ。しかし、部屋から外へ出るにしても非常階段を探してうろつけば管理人が阻むし、バスローブ姿にスリッパでは外へは行けまい。
残る心配は、部屋の中で自殺を図る事。これも昨夜のうちに対策した。刃物は、包丁に至るまで全て隠した。長さのある紐の類もない事を確認した。
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