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第21話 4章 星夜の過去

     なるほど、そうなのかと成瀬は思った。成瀬は、中学生以来の友人として、彰吾の男性、そして女性遍歴をかなりの部分知っている。どちらとも深く付き合うことが無い男だった。深みにいかない、それがある意味彰吾の誠実さのようにも思っていた。深みにいかないからこそ、別れた時に、傷つかない。  彰吾はバイセクシャルだが、自分とは性的な関係がない、純粋な友情。だから続いてきたと思っている。気の置けない友達。彰吾にとって自分は、ひょっとしたら一番深い付き合いかもしれない。彰吾は、友情は育んでも、愛ではできないのではないか、そう思うこともあった。  それがこのはまりよう。そこまで星夜、秋好香という人物に惹かれたのか……。この男が、真剣な恋をするのか。  真剣な彰吾には悪いが、成瀬は面白いと思った。この先の行方も楽しみだ。親友としての、純粋な好奇心でもある。是非とも続きを楽しみたい、無論、彰吾の恋の成就、そのゴールを望んでいる。  親友として、彰吾の恋のゴールは見届けたいと思っている。 「改名は、難しいが不可能ではない。まあ、改名の動機がものを言う。裁判官が納得する動機付けだな」 「難しいよな、簡単にはいかないとは、法律に素人の俺でも何となく分かる。だが、不可能でないなら、何とかしてくれ、頼む」  彰吾は、真摯に成瀬に頭を下げる。これも珍しいこと、と言うか初めてかもしれない。益々彰吾の本気さが分かる。 「分かったから頭を上げろ。お前に頭を下げられると気持ち悪い。大丈夫だ任せろ、難しいが尽力する。ただし、本人の承諾は必須だ。それさえあれば、後は俺に任せろ」  星夜は二十三歳、成人している。本人が望めば、先方の承諾なしに、養子縁組も出来れば、改名の申し立ても出来るのだ。現状今のところは必要性を感じていないが、住民票の移動も本来は必要になる。健康保険証も必要だ。今は、それらが全てない状態。言ってみるならば、住所不定者、それが星夜の今の状態だ。  つまり、このままの状態では良いはずはない。どこかの段階で、一度は星夜に現実へと向き合わせなければならない。それだったら、早い方がいい。 「早速今晩、星夜にこれを見せて、現実に向き合わせる。早い方がいいからな。その後正式に依頼するが、それは、星夜からの依頼になるのか?」 「改名はそうだ。本人が申し立てることになる。それを俺が代理人として代行する。一番ハードルが高いのはそれだ。まあ、弁護士の腕が出るのは事実だ。後の諸々は書類書いて提出するだけだから、簡単に済ませられる」 「ああ、分かった。星夜に納得させたら、すぐに連絡する。後をよろしく頼むよ。それと、報酬は俺個人に請求してくれ。できる限り精一杯弾むよ」 「ははっ、太っ腹な発言だな、忘れるなよ! たっぷり弾んでくれ! 期待しているぞ!」  成瀬が笑いながら言う。勿論冗談だが、それは彰吾にも分かっている。十二歳の時からの付き合いなのだから、友の誠実さは彰吾が一番知っている。物金で動く人間ではない。だから、未だに友人なのだ。  彰吾は、決意と静かな闘志を胸に、成瀬の事務所を後にする。今晩が、正念場だ。

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