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第22話 5章 愛している
彰吾は、成瀬の事務所から一度病院へ戻り、仕事を済ませた後帰宅した。
「お帰りなさいませ」
星夜は、必ず立って出迎えてくれる。自分の帰りを待っていたようで、彰吾は嬉しいのだが、玄関まで出てきてくれるともっと嬉しい。そうなれば、抱きしめて口付けしたくなるのは必須なので、今はこれでいいかと思っている。
それにしても、「お帰りなさい」ではなく「お帰りなさいませ」だ。礼儀作法は叩き込まれているのだろう。まあ、ああいう世界、その点は厳しいのだろうと思う。
「ああ、ただいま。今日もいい子にしていたか?」
口付けはしないが、頭を優しく撫でてやる。これは嫌がらない。星夜は頷きで応えた。
星夜としては、頭を撫でられて、子ども扱いされてる感はするが、嫌ではなかった。むしろ、彰吾の手の温もりに、安心する思いがある。
「何をしていた? 今日も絵を描いていたのか?」
彰吾が買い与えた、色鉛筆が届いて以来、星夜は毎日のように絵を描いている。本人は恥ずかしがって積極的には見せたがらないが、中々の出来で彰吾は感心していた。素人目にもかなりの才能に思える。
今日判明した星夜の過去。踊りと、絵は全く違う分野だが、芸術的才能が豊富なのだろと思う。
秋好香は子供の頃から踊り一筋で生きてきたのだろう事は、容易に分かる。おそらく、普通の子供の遊びなども経験ないだろう。星夜には、どこか浮世離れしたところは端々で感じる。本人も、今まで絵を描いたことはないと言っていた。
踊り一筋で生きてきた秋好香。それが星夜になって、その踊りから離れて生きられるのか……成瀬の事務所を出てから、それを考えていた。死を選ぶほどの、地獄の環境。しかし、そこを逃れても踊ることをも捨てられるのだろうか……。
踊りに変わるもの、それが絵になればいい。絵を描くことで、踊りから離れた空虚感が埋められれば、後は自分が支えてやればいい。
もし星夜が望むのなら、しかるべき師匠に師事させても良いと考えている。プロになる必要までは無い。生きる張り合いが出来れば、彰吾はそう思うのだ。
「今日は何を描いたんだ、見せてくれないのか」
「まだ途中だから……」
「完成したら見せてくれるのか」
「……はい」
「そうか、楽しみにしているぞ」
彰吾に褒められるのは嬉しいが、全くの我流で描いている絵。それを見せるのは、本当は恥ずかしさが先に立つ。しかし、見せないわけにはいかないよなと、星夜は思った。
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