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第36話 7章 囚われの小鳥

 悲しみに浸る間もなく、葬儀そして初七日法要が執り行われた。 「ここまであっという間だったな。正直心の準備が足りなんだが、何とか無事に終えた。お前も一度神林に戻らねばならんな」  父の言葉に香も頷く。本音はこのまま秋好に留まりたいが、それではけじめがつかないのは香にも分かる。 「わたしが宗家を正式に襲名すれば、次の若宗家は、香、お前だ。神林には大学卒業までとの約束でもあるが、こちらも事情が変わった。これを機会に返してもらうといいのだが」  それは香も望むところだ。秋好で宗家を襲名する父の助けになりたい。宗家を補佐し、弟子たちの稽古を見るのも若宗家の役目。それを父のもとで果たしたい。そのためにこの十年近くを耐え忍んできたのだ。 「わたしもそうして頂きたいです。秋好でお父様の助けになりたいと思います」 「会葬の御礼にも伺わねばならんからな、その折にもお願いしてみよう。お前は取り敢えず一度神林へ戻りなさい」  父の死によって、秋好流宗家になった桜也は四十九日の法要後、神林流を訪問した。前宗家の葬儀への会葬御礼と、香のことを願うためだ。  しかし、神林の宗家の応えは否であった。 「確かに秋好さんのところの事情が変わったのは分かる。しかしな、香はわしの大切な愛弟子じゃ。まだ教えねばならんことも残っておる。来年の春までと思ってこちらも段取りしてきたのでな」  神林の宗家から、大切な愛弟子とまで言われれば、桜也にはそれ以上何も言えない。むしろありがたく申し訳ない思いになる。 「そこまでおっしゃって頂き、まことにありがたいことです。私どもの都合で浅はかな申し出申し訳ございません。何分父の急死に動揺していたことと、ご容赦ください」  香はその事実を古城から聞かされた。 「先程秋好の宗家がお見えになりました。香さんのことをお話になられたようですが、変更はなく来春までこちらでと決まりましたので、香さんもそのつもりで。次にお帰りになれるのは、来月の新盆になります」  どうしてそうなったのか父から直接聞きたかったが、ここでは二人になることはできない。香の部屋は奥にあり、そこは香の父と言えど入ることはできない。その為、父も香に会うことなく帰っていたのだろう。  親に会う自由も無い籠の鳥だなと自嘲気味に思う。しかし、来月の新盆まではあとわずかだと自分励ました。

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