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第41話 8章 絶望

「宗家、お呼びですか」 「ああ、入りなさい」  いつにもまして厳しい父の表情に、秋月も身を引き締める。こういう時の父は、父ではなく宗家なのだ。 「年が明けたらわしは身を引く。秋月、お前が宗家だ」 「えっ! そっ、それは」 「そして、次の若宗家は香だ」  驚きに、更に驚くことを畳み掛けられて、秋月は絶句する。 「三月香が卒業したら、涼子と結婚させ、名前を香月に改名させる。その後お前の宗家襲名披露公演じゃ。秋好の公演より先にせねばならぬ。あちらの公演には、香は神林香月として客演させる」  一気に話す昭月。秋月は絶句したまま。古城もさすがに驚きで言葉が出ない。よくぞここまで短時間で、これだけの決断をしたものだ。これが、長年宗家の座を守ってきた人の凄みかと、畏敬の念を持つ。 「秋月、何か異論があるなら申せ。 よいか、これより他に香を神林にとどめておく手だてはないぞ」  秋月は、父に頭を下げたままだ。秋月とて香が秋好へ戻った後の、危機感は十分感じてはいた。何か良い方策はないかと考えてもいた。しかし、さすがにそれは考えなかった。  東月に才能がないことは分かってはいたが、だからと言って切り捨てるのは父親として忍びない。ここが、昭月との違い……だが、次期宗家として冷徹にならねばならない。秋月は絞り出すように、父へ応えた。 「異論は、ございません。全て仰せの通り従います」 「うむ、東月と涼子にはお前が父親として納得させろ。その後香と秋好へは、わしから申し渡す」  その後自室に戻った秋月は、一人今後のことを考えた。香が十五代目の宗家を継ぐことに異論はない。しかし、親として東月の身を立てるようにはしてやりたいとの思いがあった。  翌日、秋月は息子である東月へ宗家の考えを伝える。  東月は冷静に受け止めた。自分自身才能が無いのは分かっている。どこかで、自分が神林の跡目を継ぐことはできないとの思いもあった。そのやり場のない思いを、香を抱くことで発散してきた部分もあるのだった。 「このこと全て決定事項だ。異論はないな」 「はい、宗家が決めたのなら絶対です」  思いのほか冷静な東月に、秋月は安堵の思いを持つ。そして、昨夜一人考えたことを伝える。 「お前は今後裏方に徹するのだ。そして影の実力者になるのだ。香はいわば看板だ。お飾りだと思え、実権を握るのは、お前だ」  東月には父の言いたいことが理解できる。むしろ自分自身がそれを望んでいる。才能ではとてもかなわないのは分かっていた。だが、東月には神林の直系だとの自尊心がある。 「よいか、出来るか? そのためには、香の体に翻弄されてはいかんぞ。常にお前が支配するのだ。分かるか?」  東月には耳の痛い父の言葉だ。初めて香を抱いた時から、香の魅力に取りつかれていた。いつも、若さの情熱だけで香を抱いていた。当然それは、経験を積んだ秋月には分かる。東月には痛いところをつかれたわけだ。 「はい、父さんの指摘するところは分かります。自分には未熟なところがあったと……。これからは心して行います」  秋月は息子の返事に満足する。未だ未熟な面はあるが、自分が宗家の間は自分の権力は絶対だ。その間にこの息子を成長させればいいと考えたのだ。

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