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第47話 8章 絶望
ふら付く体で、奥から宗家のいる座敷へ出ると、香は土下座のようにして宗家へ謝罪させられた。体の中に残るおぞましい感覚と、惨めさに涙を堪えるのが精一杯だった。
その後、香は古城に支えられながら自室へ戻った。無論、今日は秋好へ戻れるとの、古城との約束は反故にされた。香は、再び強固な神林の檻のような籠へ入れられたのだった。
体は動かすこともままならない。そしてそれ以上に心は疲れ果てている。一睡もできずに、その夜は明けた。
「香さん、朝食はまだですか?」
「いりません」
古城の問いに短く答える。そのまま姿を消した古城が、五分ほどで戻ってくる。
「ホットミルク、蜂蜜を入れました。せめて、これだけでも飲んでください。また宗家に心配をおかけしたらいけませんよ。今日は宗家と若宗家はお出かけになります。わたしもお供します。昨日言われましたが、明日は宗家自らお稽古をつけてくださいますから、踊りの勘を戻しておいてください。くれぐれもお叱りを受けないように、よろしいですね」
古城の言葉に、香は無言で頷いた。声を出す気力も残っていない。
カップ一杯のミルクを持て余す。喉を通らないのだ。そこへ、東月が入ってきて、香の顔が引きつる。
「そんな顔するなよ。俺はお前の兄弟子で、将来の義兄だぞ。俺は、お前を弟として可愛がってやりたいと思っているんだ」
無言のままの香に近づくと、素早く香の手を取り縛り上げる。香は、急な事に驚愕する。何故、朝から……。
「ふふっ、昨日は相当堪えて反省しただろうが、それが本物かどうか見極めるために、暫く戒めをする。おじい様、宗家のお許しが出るまでの辛抱だ」
そう言って東月は香の前を開けて、その男を取り出すと、組紐で根元から縛めていく。余りのことに、香は呆然と東月の手元を見るしかできない。
「小便は出来るから安心しろ。今晩、閨のお務めの前、体を清める前に解いてやる。今日からお前は、毎朝これをして、夜は閨のお勤めだ。宗家と若宗家、そして俺を楽しませるのがお前の務めだ。分かったな。まあ、また逆らえば罰は分かってるな。今度はもっと辛いぞ。罰が段々と厳しくなるのは当たり前だからな」
ここへ来て十年。閨の務めは、辛いことばかりだった。しかし、ただ秋好流のためと思い、耐え忍んできた。それに、閨の務めも弟子としての義務と思って来た。
しかし、今は心の支えだった秋好流は消滅が決まった。そして、こんなことまでされて、これが弟子の務めだろうか、単に性奴隷としか思えない。このままここにいても、体をいいようにもてあそばれるだけ。
だが、秋好には戻れない。昨日のように連れ戻されるだけだ。そして、再びあのおぞましい罰。
香には、どこにも逃げ場はなかった。死ぬこと以外に。
死ねば、ここから逃れられる。否、死ぬことでしか、ここから逃れる術はない。
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