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第54話 最終章 光の先に見つけた幸せ

「お前の作った料理に夢中で忘れるとこだった。成瀬から連絡があった。家裁から呼び出しがあったそうだ。今週の金曜だ」 「あっ、改名の件ですね。成瀬先生が行ってくださるのですか?」 「ああ、成瀬が全てやってくれる。それでオーケーの通知だったら、すぐに役所へ変更届けを出しに行ってくれる。それでだ、来週金曜に入籍をしよう」 「えっ! 来週金曜ですか?」 「そうだ、事実上の結婚だからな。二人で一緒に役所へ行こう。その後は、旅行だ」 「旅行!?」 「ああ、一応新婚旅行だ。日程が三泊四日しかとれないから、外国は無理だが、国内のどこかでゆっくり過ごそう。どこか行きたい所はあるか?」 「い、行きたい所……わたしは旅行なんてしたことないので、分からない……」  そうか、星夜は旅行の経験もないのか……これからは、俺が色んな所へ連れていってやらねばと、彰吾は思う。 「そうだな、じゃあ……時期的に涼しい所がいいな……北海道は、観光客が多過ぎてあれだな。涼しい所……北陸にするか! どうだ?」 「わたしは、彰吾さんと一緒ならどこでも」 「またお前はそう言う可愛い事を言う。抱きたくなるじゃないか」 「そっ! そんなっ!」  赤くなってプイっと横を向く星夜が可愛くて、彰吾はあははっと笑い声をあげる。  星夜が、正式に『柏木星夜』になるまであと少し、二人は同時にそう思った。  家裁からの呼び出し日である金曜日。星夜は、朝から落ち着かない。  本当に大丈夫だろうか……。香とは決別したい。でなければ、彰吾に愛される資格がない、星夜はそう思うのだ。  彰吾は、お前の体はきれいだと言ってくれるが、星夜にしては、彰吾に対して申し訳なさで一杯になのだ。何人もの男から、体を蹂躙されたのは事実だからだ。とてもきれいな体とは言えない。  まっさらなきれいな体で出会いたかった。そして、初めては彰吾に捧げたかった。それは、叶わぬ思い。  だけど、星夜になってからは、彰吾ただ一人。これからも彰吾ただ一人に操を立てるのは、心から誓える。だから、星夜になりたい。  午後の三時。  そわそわと落ち着かない。もう成瀬が家裁に行っている時間は過ぎている。星夜は、夕食の準備に取り掛かる。まだ最後まで作る自信はないので、下ごしらえまでだが、それでも彰吾は喜んでくれる。  焦らず、もう少ししたら仕上まで出来るようになりたいと思いながら、野菜を洗って切っていく。手際はだいぶ良くなっている。まあ、最初がひどすぎたせいもあるが。  星夜のスマホに着信音、彰吾からだ。慌てて取ると、彰吾の弾んだ声。 『許可が下りぞ! 成瀬が今から役所へ届を出しに行ってくれる』 「うわー! そうですか、良かった!」  良かった! ほんとうに良かった。星夜は嬉しさの余り、体の力が抜け、そして涙を零した。  わたしは、今日から正式に星夜だ。今は秋好星夜だけど、あと一週間で柏木星夜になる。

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