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第55話 最終章 光の先に見つけた幸せ
「お前はここへ来た時から星夜だったけど、戸籍でも正式に星夜なって、初めてだな」
星夜は今、彰吾の腕の中。そう、今夜は星夜になって初めて彰吾に抱かれている。
「凄く嬉しい……星夜になって初めてだから」
彰吾の口付け、愛撫も何もかも初めてのような気がする。
星夜は、彰吾の腕の中で、いつも以上に甘い陶酔を味わった。色づいた体で、喘ぎ、甘い声で強請る星夜に、彰吾の情欲も刺激される。
この夜星夜は、初めて彰吾の上に乗り、自分から動いた。指を彰吾のそれに絡ませて、陶酔の高みに上っていく星夜は、扇情的で美しい。
「ああんっ……あっ、いくっ……ああーっ」
星夜は体の中に彰吾の精を感じながら、陶酔の極みに登る。そして、彰吾の胸に抱きこまれる。
そのまましばらく、お互いの温もりと鼓動を感じている。確かに生きている。愛する人と共に。
「良かったよ。お前は最高だ」
彰吾が、星夜の乱れた髪を撫でつけながら、優しく言う。
「でっ、でも凄く乱れて、わたしのこと、はしたないと……」
「はしたないなんて思わない。今日のお前は、いつにも増してきれいで、そして魅力的だよ」
耳元で囁くように言う彰吾。星夜の体は更に色付き、再び二人は一つに繋がり、とろけるような甘い夜を過ごすのだった。
今日は入籍の日、星夜は、いつもより大分早くに目覚めるが、そのまま彰吾の腕の中で過ごす。この一時が極上の幸せ。
「うん……起きたのか? 早いな。今日は入籍の日だな。後から渡す物がある」
「渡す物? なんですか?」
「それは、後からのお楽しみ」
えーっ、なんだろう? と思いながら星夜は、もう少し幸せを味わってから、起き出した。
いつも目覚めてから、起きるまでの、この彰吾の腕の中で過ごす一時が大好きなのだ。
正式に星夜になってから、一週間。この日を楽しみにしてきた。朝から、二人で役所へ行き、入籍届を出したら、その足で新婚旅行。
星夜にとって旅行へ行くのは、高校の修学旅行以来。つまり、プライベートでの旅行は、中学生になってから初めてなのだ。
行き先の北陸がどんな所か知らない。けれど、彰吾が連れていってくれる所ならどこでもいい。ワクワクして、今の自分は子供と同じ、なかば呆れながらそう思うのだった。
「支度はできたか? おーっ! よく似合っている、涼し気でお前にぴったりだ」
この日のためにと彰吾が選んでくれた服。言わずもがな星夜も気に入っている。
「さあ、これだよ」
じゃーんという感じで、彰吾が後ろ手に隠していた物を出す。
「えっ! 指輪!」
「そうだよ、結婚指輪だ。お前も薄々気づいてただろ?」
「ううん、全然……夢みたい……わたしが貰っていいの?」
「もちろんだよ、結婚指輪なんだから。俺がつけてやるよ」
指輪は、スムーズに星夜の薬指にはまる。
「うん、ぴったりだ。前にサイズを確かめたからな」
そういえば、彰吾に全てを告白した後、指のサイズを測った。けれど、まさかこの指輪のためとは、あの時は思わなかった。普通はそこで気付くだろうが、そうでないのが、世事に疎い星夜らしく、彰吾にはそこがまた可愛いところでもある。庇護欲も駆り立てられる。
小鳥を守る、親鳥のような自分。全く、自分がこんな気持ちになるとはなと、彰吾は苦笑する思いだ。
「俺のは、お前がはめてくれるか」
そうだ、結婚指輪だからお揃いなんだ、星夜は感激の面持ちで、彰吾の指に指輪をはめる。
「うん、よしっ! お互いの指輪に、相手の名前が刻印してあるから、いつも一緒にいるということだ」
星夜はまじまじと指輪を見つめる。そして一度外して刻印を確かめる。彰吾の名が刻まれている。心の底から感動が湧いてくる。再び指輪をはめる。
もうこれは決してはずさない。ならば、一生彰吾と共にいることが出来る。
「嬉しい……ありがとう。改めて、至らぬわたしを、どうかこれからもよろしくお願いします」
「ああ、俺もな。お前のことは一生離さないし、お前も絶対に離れるな」
星夜は深く頷いた。もうこの人から離れては、生きてはいけない。愛している。こんなにも、人を愛するようになるとは、思いもしなかった。
愛を知らない、冷たく乾いたところで生きてきた。そんな自分を愛し、愛することを教えてくれた彰吾。最愛の人、決して離れない。
「物凄く緊張しました。無事に受理されて良かった」
「ははっ、横にいて、お前の緊張が伝わってきた。受理されないってことは絶対にないが、まあこれで安心だな。区切りもついたしな。今日からお前は、柏木星夜だからな」
柏木星夜、なんて良い響きなんだろう。星夜は、柏木星夜、柏木星夜と何度も呟く。わたしは柏木星夜。
秋好香として生きてきた。それが、神林香月になることを強制され、逃げてきた。あの日、秋好香は死んだのだ。そして生まれ変わって、秋好星夜になり、今日柏木星夜になった。
柏木星夜……嬉しい。心がわくわくして、そしてときめく。
あの日、ぼろぼろの瀕死の小鳥のようだった自分を、彰吾は助けてくれ、傷を癒してくれた。そして、安息の止まり木を与えてくれた。
安息の止まり木をで知ったのは、初めての恋。星夜は、安らぎと、恋のときめきを同時に知った。それは、彰吾のおかげ。彰吾に出会って良かった。
神を信じたことはなかったが、今は神に心から感謝する。
あの日から、今日までの出来事を思いだすと、夢のようだと思う。本当に生まれ変わったかの如く、人生ががらっと変わった。
絶望の淵に立たされた自分を、神も同情したのだろうか。救い出してくれたのは、感謝しかない。
星夜は、愛する人に寄り添い、そして小さい声だが、はっきりと告げる。
「ありがと、彰吾さん。心から愛しています」
「ああ、俺も愛しているよ」
完結しました。お読みいただきありがとうございました。
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