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A Knight of the goddess 女神の騎士1

『アラタ、アラタ。こちらましろですわ。ツバメがそろそろ起きそうですわよ。儀式が済み次第、すぐに戻ってきてくださいませね、オーバー』  寝室のベビーベッドで寝ているつばめちゃんを監視中のましろから、意思の共有(メッセージ)が飛んでくる。 『ましろ、ましろ、こちら新太。了解、もうすぐ終わるからちょっと待て。オーバー』  まるで無線通信みたいな物言いだが、色々試してみた結果、この方法が一番、思っていることを俺がダダ漏れさせず、意思疎通したい部分とそうでない部分を明確に分ける良いやり方だと判明して以来、俺とましろで意思疎通する際の決まり事みたいになっていた。  俺のモノを尻に入れっぱなしで俺の太ももに座っている直には、すぐに意識が逸れているのがバレたらしい。両頬を両手で挟まれ口の中に舌を差し入れられ、歯列から舌の裏、口蓋全て舐め尽くされる。 「……っぷ、お、直、すまない、聞いてくれ。つばめちゃんが起きそうだって。もう詠いは終わったよな? 俺、先に戻るから一旦立ってもらえるか?」  煌めくような雰囲気の直は、確かに唇は離してくれたが、俺の頬から手は離さないし、立ってもくれない。  そういえば今日は、() () () () () () () () () ()な。  仕方ない、強制終了するか。  俺は直の背中に当てていた手を両脇に差し込み、ゆっくりと持ち上げる。泥濘んだ中から俺のものを取り出すと、ついでに俺が中に出したものまでぼとぼととこぼれ落ちてきた。 「おい直、ちゃんと締めとかないと……」  顔を上げると、直は俺達の部屋の方を見ていた。唐突に、人差し指でカーテンを指し、横に振る。  カーテンが、しゃっ、と音を立てて閉まった。 「え」  いや確かに閉めたけども。締める違いというか、待て、いま何が起こった?  更に直は、先程と打って変わって、驚きで動けなくなった俺の額、鼻、頬、唇を順に撫でながら、甘く優しいキスの雨を降らす。  次第に触れ合いが熱を帯びて、気づけば下腹部の血流が急激に良くなって――いやいやこんなの硬くならざるを得ないし、ほらすんなり入っちゃうじゃないか……って、 「え」  気づくと、俺の育った俺は、再び直の素晴らしく温かくて泥濘んで、気持ちの良い場所へ吸い込まれていた。  しかも直は、間髪入れず詠い始める。 (ちょ、ええええええ、なんでだ直!?)  思わず小さく叫んでしまった。 『アラタ、アラタ、こちらましろですわ。いま誰がカーテンを閉めましたの? 自動式の何かでも取り付けまして? アラタではございませんわよね、セバスチャンは否定しておりますわ、オーバー』 『ましろ、ましろ姉さん、こちら新太。いや俺にもマジで何が起こったのか分からん、ちなみに自動式ではない、そしてまだ戻れないことが確定。すまないが、つばめちゃんが起きたら離乳食の準備を頼む、あとセバスに俺達の朝食の準備のお願いもしてくれ。オーバーアンドアウト』 「直、あのさあ」 「ん?」 「直って、サイコキネシスみたいなこと、できたっけ?」  あの後も直にイカされ続け、いつもの三倍強の精を搾り取られた俺は、朝食の準備の合間にセバスが差し出してくれた、かなり濃いめに入れてもらった特製ハーブティーを音を立てて飲み干す。 「サイコキネシス?」 「ほら、詠い無しで、つまり魔法を発動させずに遠隔で物を移動させるとか」 「ううん、できないけど、どうして?」 「あー……いや、ちょっと思っただけ。ちなみに、たまにセバスとかましろが使うようなおまじないでも、サイコキネシスみたいなことって、可能?」 「うーん、物を動かせる域までとなると、おまじないじゃ無理かなあ。  僕の場合、魔力をコントロールできてない時は、魔力暴走で物を動かしちゃう、はあったけど、一つのものを指定した場所へ意識的に動かすというのは、コントロールできてないからこそ無理だし、きっと新太が想像してるのは、そういうことじゃないのでしょう?   どうしたの、研究の調べ物?」 「うんそう、それそれ」  直は、今日も自分が儀式中にやったことを覚えていないようだった。儀式直後、いつも通りに俺に接してきた。どうやらいつもの三倍強注がれていることにも気づいていなさそうである。  直は、トランス状態になることについて、嫌がるというかいつも申し訳なさそうにするが、これといって特に害もなく、いつも以上にきらきら輝いて美しく綺麗な直が堪能できるという、単なる俺得しか発生しないため、そこまで問題視していなかったのだが。  やはりそろそろ一度、ダイアナに相談した方がいいのかもしれない。 「どうかしたの? 眉間に皺寄ってる」 「いいや。つーかさ、直。『Shogun Assassin』って知ってるか?」 「ええと、なんだか聞き覚えあるような……ああ、思い出した! 『子連れ狼』だ!」 「そう、それ。俺さ、年明けからつばめちゃん抱っこしながら授業出てるだろ、学生どもが勝手につけたんだよ、俺のあだ名。  てか、ショーグンの殺し屋ってなに物騒な話してるんだって話しかけたら俺のことだって言われて。日本人なのに意味も知らないのか、調べてこいよ、だとさ。  いや俺別に乳母車? 使ってねえし、殺し屋でもないしショーグンどこにも居ねえだろっての」  しばらくの間知人の子どもの面倒を見ることになったが少し訳ありの乳幼児なので離れられない、一緒に出勤してもいいか? と古書研究室のフリード教授に確認したところ、事情を根掘り葉掘り聞かれた上で許可が出た。  どうやら教授は、俺の魔法耐性についてじかに確認できる絶好のチャンスと考えたらしい。  ちなみに教授はいつ見ても何が起きようとも常に笑顔で、胡散臭いことこの上ない。  俺が研究室に所属する直前「仕事を与える代わりに、君の研究は足の爪先から髪の一本まで全てうちの研究室が最優先とされる。くれぐれも忘れないように」と声高らかに宣言していたのもあるのかもしれない。研究対象である俺からの好感度などどうでもいいらしい。どう転んでも自分の利益を見出しそうなタイプだ。  まあ、つばめちゃんがどうこうされる危険性はないようだし、むしろずっと抱っこしとけと勧めてもらえたので、ありがたくそうさせてもらっている。  なんなら出張の頻度も減らしてもらえた。  代わりに、冬休み明け、授業が再開された日から教授の授業の補佐役としての仕事が激増した。  もれなく学生達と触れ合う時間が増え、知らぬ間に意味不明の二つ名がつけられていた、というわけだ。 「それから、ベンケイって呼ぶ奴らまで出てきた」 「ベンケイって、武蔵坊弁慶? え、どうして?」 「先週だっけか、言ったろ、講義中につばめちゃんが泣いて、魔法陣発動させるまでの間、俺以外、教授も学生どももみんなのたうち回ってたって。  誰も立ってない中で、俺だけ突っ立ってたからだとさ。いやいやそれだと討ち死にだし俺死んでねえし、言ったやつはもっかい意味調べてこいって言ってやった」  あははははと笑われる。 「釈然としないあだ名ばっかだわー」 「まあいいじゃない、赤ちゃんがいることに抗議されてるわけじゃないんだし……つばめちゃんのこと、新太に任せっぱなしになってるのは、申し訳ないんだけどね……」  俺は、俯き始める直のおでこにキスした。 「直の仕事は、薬品や危険物を扱うんだから連れて行けない、そのことは納得してるって何回も話したろ。代わりに家の中じゃ直に頑張ってもらってるんだから、気にするな」 『そしてわたくしセバスチャンも頑張っておりますよ! はい、朝食出来上がりました! 即食べて即準備お願いします! あまり時間がありませんからね!』  はーい、とふたりで返事をして、テーブルに配膳されたパンやスープを急いで食べる。 「さーて、つばめ姫。本日は下界の者どもを睥睨バージョンと、騎士の御許にお籠りバージョン、どちらがよろしゅうございますかね? ほう? 睥睨なさるバージョンをお望みか! さすがつばめ姫、お目が高い! 承知、ではそのように致しましょうねえ」  俺はつばめちゃんに話しかけながら、抱っこ紐のウエストベルトをセーターの上から括り付け、つばめちゃんをベビーベッドから抱き上げて、前向き抱っこで各種ベルトを装着していく。 「ねえ新太、それ毎日聞いてるけど、本当につばめちゃんが選んでるの?」  くすくす笑いながら直が聞いてきた。 「んや、なんとなく。なんとなくだけど、喜んでそうな方を選んでる」 『私もなんとなくですけれど、アラタが選んでいるのが正解のような気がしておりますわよ』 「おっ、ましろのお墨付きなら間違い無いな!」 『あくまで気がする程度ですわ、万が一外した場合は、責任は負いませんわよ』 「ましろ姉さん……」 『では新太様、洗濯物は乾燥までのコースにしておりますので、お帰りになられましたら取り出しと畳み、クローゼットへの収納までよろしくお願い致しますね』 「えっ」  抱っこ紐に防寒用ケープを取り付けながら、俺は慌ててカレンダーを確認する。 「ああ、そうか今日は2月31日か! 今夜は直とセバス、戻ってこれないのか……」 「うん、一旦エディンバラの大学でロビン達に会って、この前送った報告書についての打ち合わせとプロジェクトの進捗確認して、その後グラント家に寄ってからインボルクのサバトに参加してくるね。  明日は十七時頃に戻り予定だから……新太?」  俺はカレンダーを見ながら固まっていたらしい。 「新太」  直が、俺の襟元を掴んで引き寄せ、ぽってりとした唇を俺の口元に寄せる。  ちゅ、と音を立てるキスから、舌を絡ませるキス、そして仕舞いに、下唇を甘噛みされた。 「ん。今回の開催は平日だから、新太は来れない。つばめちゃんもいるから、ましろと三人でお留守番。おーけー?」 「ああ……」 「お家とつばめちゃんのこと、よろしくね」 「……うん」 「んもう、まだぼんやりしてる。ましろ、新太とつばめちゃんのこと、よろしく頼んだよ」 『ええ、承知いたしましたわ』 「ねえ新太、駅まで送ろうか?」  言われて、ハッとする。だめだこれ、本格的に心配かけそうになっている。  俺は頭をぶんぶんと振った。 「んや、大丈夫。少しは歩かないとな」 「了解……あっ! そういえば、今更だけど新太、つばめちゃんが来た晩に、何か言いかけてなかったっけ?」 「それは……」  言いかけて、止めにする。 「いや、直が戻ってからゆっくり話したい。気をつけて行って、帰ってきてくれ」 「了解。新太も気をつけてね。いってらっしゃい」  軽く触れ合うキスをして、直は、つばめちゃんのおでこにも高い音を立ててキスをした。 「いってらっしゃい、今日も楽しんでね、つばめちゃん」

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