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第2話

教室に居場所がない。 息が出来ない。 隣の席の井上は大きな声で悪口を言う。 人間のクズ。 生きてる価値なんかねぇんだから早く消えろよ。 笑いながら吐かれる言葉に反応すらしないでいると、それが気に食わないのか更にエスカレートしていった。 来てんじゃねぇよ。 帰れ。 だと。 お前が帰れよ。 受験生なんだよ。 樋山も同じ。 わざと聞こえるように侮辱する言葉を吐く。 授業中も、部活動中も、ないことばかりを言い、他のクラスメイト達や後輩達をもそれに便乗させる。 赤信号もみんなで渡ればこわくない、つもりなのだろうか。 1人じゃ出来ないくせに。 教室内では他の生徒達からも空気扱いだ。 空気扱いなのは良い。 なにかされたり言われたりするよりずっとマシだ。 快適と言えば快適。 空気の色は透明。 俺は透明人間になった。 自分の分の給食がなくなり、自分で自分の分を盛り付ける俺を見ても教師は反応を示さない。 見て見ぬふりじゃない。 見えてないんだ。 きっと食べていなくてもか分からない。 1度担任の堀に相談したが、めんどくさそうな顔をされ、わざと大きな溜め息を吐かれた。 中学3年で面倒ごとは厄介だ。 関わりたくない。 無関係だ。 そう書かれた顔で時計を見ながら言われた。 「こんな時期にどうするんだ」 どうするって…、なんだよ。 そんな声に、俺は口を噤んだ。 だけど、それも耐えられた。 中学3年。 もう1年もこの学校に通う必要がないから。 誰も選ばない高校を受験したら良いだけ。 タダで受験勉強が出来るから。 内申点の為。 ただ、それだけの理由で登校している。 だけど、ここから空を飛ぶのも良いな。 実名でテレビ局や地元新聞会社、あいつらの卒業した小学校、志望高校、ネットに遺書を送って。 命をかけてあいつらの人生を潰してやろうか。 命は重いと大人は言う。 なら、その重さをかけて人生を潰したって良いだろ。 俺の命が軽ければ潰れない。 根性試しだ。 あるドラマで言っていた。 そんなことをしても相手はあなたを忘れて生きていく。 あなたの人生は、あなたのものだよ。 と。 だけど………、もうしんどい。 「良い天気だな……」 「そうだね」 「っ!!」 背後から聞こえる声に大袈裟なほど肩が跳ねた。 びっくりした時の猫みたいに。 恐るおそる振り返ると、にっこりと笑う男の子がいた。 うっすら日に焼けた肌が健康的だ。 学校指定のスニーカーの靴紐は同じ青色。 見たことがない顔だが、人に差ほど興味がある訳でもないので、もしかしたらこの3年間1度も選択授業も一緒にならなかっただけの生徒かもしれない。 慌てて帰ろうと踵を返すと腕を捕まれた。 「待って。 暇なら話し相手になってよ」

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