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第8話
詰め襟を直すと、悠生が大人みたいな顔でこっちを見ていた。
「…思い出、くれて…ありがとう」
もう、この学校に来ることはない。
離任式は出席しないつもりだし、受験の合否も伝えるつもりもない。
本当に最後だ。
「生まれ変わったら、また…会いたい……」
「来世で会おう。
絶対」
「そこは、俺の子供に生まれ変わるとかじゃねぇのかよ」
「うん。
日向と恋人になりたいから」
ドアを開けられ、出るように促される。
出てしまったらもう2度と会えない気がした。
脚が動かない。
動かしたくない。
「悠生…」
「じいちゃんになって死ぬ時、迎えに来て。
ここにいるから。
待ってる」
悠生の笑顔が透けて太陽が見えた。
「悠生…っ」
「日向、好きだ」
とびきりの笑顔に、俺は頷いた。
「俺も好きだ。
だから、生きる」
あぁ…、お別れだ。
室内へと足を踏み入れると、触ってもいないドアが閉まった。
俺は、この一年のことを絶対に忘れない。
嫌な思い出ではなくて、悠生との思い出として。
いつか、必ず迎えに来るから。
絶対。
約束だ。
悠生
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