チャイムを鳴らして数秒。 　鍵が開いて、オレ、松風　翔(まつかぜ　しょう)を迎えたのは。 　幼馴染の窪塚　涼真(くぼづか　りょうま)。 　久しぶりに、会う。なんだか、緊張する。 　だって、涼真が待っていたのは、 　「オレ」じゃなくて、ほんとは――――。 　 ◇　◇　◇　◇ 　双子は神秘的。 　そんなイメージがある人も居ると思う。 　離れてても通じるとか。 　片方が怪我したら、同じ所が痛むとか。 　台詞がシンクロするとか。 　でも。双子の兄であるオレは、高二の今まで、翼との間に神秘的な物を感じたことは、無かった。 　オレが思うに、赤ちゃんの時からずっと一緒。当然、話さなくても分かる事も多い。 　そりゃ同じように経験して一緒に学んでるんだから、同じような言葉が浮かぶのだってとーぜん。その程度、だと思ってた。 　オレ達は、二卵性なのに、すごく似ている。 　母は見分けがつくけど。父はたまに間違える。それ位似てる。 　高校生になって、翼(つばさ)が髪を染めたから、ようやく皆に間違われなくなった。まあそこそこ「イケメン双子」とか周りに言われるようなルックスではあるみたい。 　……って、そんなことは、今はどうでもいい。 　双子人生初めての神秘的な出来事は、学校から帰ってきた時に、起きた。 　今日は朝から頭が異様に痛くて。これはヤバいなと思ってまっすぐ帰ってきた。そしたら、同じように朝から頭が痛いと言ってる翼と玄関で会った。 　初めて双子の神秘を二人で感じて、激痛の中、苦笑しあった。 　その瞬間。さらに痛む。翼も、そうみたいだった。 　二人で、痛った……と声を出して。よろけてぶつかり、一緒に床に倒れた。 　オレの上に、翼が居て。 　あ、これ本当に、ヤバい。と思った瞬間。何もできずに気を失った。　 　 　そして。目覚めたら。 　頭痛は綺麗さっぱり、無くなっていた。 　でもなんだか、よく分からない違和感。 　オレの下で倒れていた翼が起き上がったら――――。 　オレの目に映ってきたのは、どう見ても、オレ、で。 　……え？　何でオレが目の前に――――？ 　大混乱の中、慌てて洗面台の鏡の前に行くと、鏡にうつる自分は、明るい髪色の……。 　どう見ても、翼だった。 　翼も鏡に映ってきて、自分を見てから、鏡越しにオレを見つめてくる。 　疑いようもなく。 　オレ達、中身が入れ替わっていると、瞬時に二人とも、判断した。 「……どーして？　何これ」 「あー……なんでだろうね……」 「何で翼、そんなに落ち着いてんの……？」 「……正直、髪色以外、あんまり変化ないから」 　あははっと笑う翼。 　そりゃそうだけど。そういう問題じゃない。 　すごく似てると思ってたけど、こうやって鏡を見ると、自分とは違う。 「あ、ヤバい。ちょっとオレ、行ってくるね」 　そんなことを言って、どこかに行こうとする翼に、は？　とめちゃくちゃ驚く。 「ちょっ……！　待って、翼、外に出ないで、家にいて！」 　もう、どこ行くんだよ。 　今のこの事態以上にヤバいことなんてあるはずがない。 　どうにかなるまで、一緒に居てよ！ 　必死のオレを見て、翼が、苦笑い。 「だってオレ、涼真と約束あるんだよ」 「約束あるのは、翼、だろ？　オレの顔で涼真んとこ行ったら、何で？てなるってば！」 　涼真は、オレ達双子の共通の幼馴染。隣に住んでいて、昔は、三人でよく一緒に遊んでた。 　だからなのか、母親と同じレベルでオレ達を判別できる、唯一の他人。 　少なくとも、涼真はオレに、翼と呼び掛けた事は一度もない。 　一度も、間違ったことがないのは、涼真くらい。 　まあ間違われることが多いから、そんなのは気になんてしてないけれど。 　涼真が間違えないでくれるのは、嬉しかった気がする。