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第2話◇

「んなこと言っても、約束してんのに行かなかったら……」  そこまで言って、翼はふと口をつぐんで、少しの間、黙った。 「……あー……ちょっと待って。つか。これ面白いかも……」 「え? 何?」  何が面白いんだよ。  もうほんと。双子って言ったって、性格は全然違う。  翼は、いつも自由だ。  ほんの少ししか生まれ時間が違わないのに、なんとなく兄として生きてきたオレは、大分まじめで、翼みたいに自由には居られない。  こんな時に、面白いとか言えてしまう、心の余裕みたいなのが、ほんと羨ましい。 「……ワクワクしてきた。どーにか動くかも……なあ、翔?」 「なに?」  翼の言うこと、意味が分からない。ワクワクって……。 「なあ、翔。オレの顔で涼真んとこ行ってよ」 「……お前、涼真と何の約束なの? こんな時に行かなきゃいけないような用事なの?」 「行けば分かる」 「ゲームするとかなら、もう、また別の日にしてもらえよ、頭痛いとか、言えばいいじゃん」 「無理。大事な用事なの」  言い切られて、一旦口ごもり、オレは首を傾げる。   「……でも、オレ、しばらく涼真と会ってねえもん。分かんない話されても、無理だよ。大事な用なら、なおさら、違う日にした方がいいよ」 「話するっつーか……大丈夫。行って、全部涼真に任せればいいから」 「任せる?」 「そう。涼真の言う通りにしてればいいから」 「何を?」 「だから、行けば分かるから。お願い、行ってきてよ、兄貴」  ……兄貴。  いつもは翔って呼ぶくせに、こんな時に限って、そんな風に呼んでくる。  ずるいなー、もう。  そして、オレは、ずるいの分かってるのに、翼を、無下に出来ない。 「つかもう……どうなっても知らないからな」 「んー。うん。まあ。多分平気」  もーなにが平気なんだよ。さっぱり分かんない。 「……とりあえず行って、話してくればいい? 分かんない話になったら、頭痛いって言って、戻っていい?」 「ん。まあ。任せる」 「じゃあいいよ。一回行ってくる。そのかわり、翼、この事態がどうにかなるまでは、家にいてよ?」 「ん。分かったって」  頷いてる翼に、ため息をつきながら、オレは玄関に向かう。靴を履いてるオレに、翼が、やけに静かな声で「翔」と呼んだ。 「ん?」  靴を履き終えて振り返ると、じっと見つめられる。 「オレと涼真の関係、絶対壊さないでよ?」 「……??」 「分かった?」 「……どういう意味?」 「涼真の言う事聞いてれば、楽しく用事も終わるから」 「……全然分かんないんだけど」  ――――昔は、オレと涼真の方が仲良しだったのに。  中学の途中から、涼真がオレから距離を置くようになった。そして、高校が離れて、全然遊ばなくなった。  オレは、彼女が出来て、そっちと会うのに忙しくなった。  そしたら、ここ二カ月位からかな。  ふと気付いたら翼が、涼真の所に通うようになっていた。急に仲良くなったみたいで。なんか疎外感。  涼真と昔はよく一緒に居たのになと、切ない気もするけれど。  成長って、そういうことだと納得するしかなかった。  いつまでも隣同士だからって、仲良く居られるとは限らないし。そもそも、涼真が、オレと距離を置いたんだし。 「なあ、翔、聞いてる?」 「……あ、うん。聞いてるよ」 「今、翔が入ってるのはオレの体だから! そこ忘れんなよ? オレに何があっても、翔には関係ないんだからさ」 「……全然、意味わかんない」  ほんと意味が分からない。  分からないオレがいけないのか? 「まあまあ、いいから。翔、行ってきて」 「もう、ほんとに話あわなくてバレそうだったら、帰ってくるからな」 「だから。オレと涼真の、築いてきた関係、壊さないでよ。いい?」 「…………」  何だよそれ。  築いてきた関係って。  ……お前ばっかり、涼真と仲良しみたいな。  …………なんかムカつくけど。 「あ、翔、スマホ貸して」 「ん」 「暗証番号は? 前のまま?」 「うん」  翼は何を考えてるのか、オレのスマホから、自分のスマホに電話をかけた。自分で電話を受けて、その繋がった状態で、玄関の棚に置いてあった小さな鞄にオレのスマホをしまった。 「なに、このままつなげとくの?」 「そう。入ったら、涼真の机にこの鞄、置いて」 「盗聴みたいで、いやなんだけど」 「――――オレが本来する会話を、オレが聞くだけじゃん。それに今度涼真と会う時、話が合わないと、嫌だし」 「ああ……そういうことか……」 「だから、盗聴ではないでしょ?」 「……まあ、そうか。……非常事態だもんね。分かった。じゃあこのまま繋いどく」 「ん。翔」 「うん?」 「何があっても、オレは、全部納得済み」 「……は?」 「オレ涼真、大好きだからな。絶対、大事にしてきて」 「――――」  何それ。大好きって。  ――――大事にって。  ……オレの方が。仲良かったのに。  ――――いつから、そんなに、仲良くなった訳。  ああ、なんか  むかつくな。  翼に対して、こんな事思うの、珍しい。  ――――オレはため息をこらえながら、翼と繋がったままのスマホが入った鞄を手に、隣の涼真の家に向かった。

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