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第3話◆「一度でもいい、なんて思ってしまった」

 インターホンを鳴らすと、少しして、涼真が出てきた。  と、こういう訳だから。  涼真が待っていたのは翼であって、オレのことじゃない、んだけど。  顔と体だけは翼なので、涼真は、オレを普通に迎え入れる。 「入れよ」  涼真が言う。オレは「お邪魔します」と中に入る。すると涼真がクスッと笑った。 「何それ。珍しい事言って。翔の真似?」 「――――」  ……翼、お邪魔しますとか、言わないのか。一言目から怪しまれてる。  翔の真似?って。結構的を得てる。真似じゃなくて、中にオレが居るからな。……なんか、さすがだな、涼真。……鋭い。 「今日翔は? 家に居るのか?」 「居るよ」 「今日はデートじゃねえの?」 「そう、みたいだよ」  ていうかオレ、こないだまた、別れちゃったけど……。  ――――オレの話なんか。翼と、するんだ。  少し、複雑な気分。 「翼、水飲む?」 「ううん。いらない」  ぁ。翼なら、「いらねー」かな。  思った瞬間。 「……何、翼。さっきから何で翔の真似してんの?」  じ、と見つめられる。  なんか。久しぶりに会ったけど。  すごい背が伸びて。体も、筋肉ついてるし。  イイ男に拍車がかかってる気がする。 「……まーいいや。部屋いこ」  涼真が言って、先に階段を上り始める。 「おばさんたちは?」 「……親父遅いし、母さんも夜勤。だから来てんだろ。お前今日、変だな」  ……やめようもう、質問するのも。  言葉遣いは「じゃねー」とか「おう」とか。少し柄悪くを心がけよう。  部屋に入りかけて、思わず足を止める。  中学二年の夏。ここに、最後に泊った日を境に。  涼真は、オレから離れていった。  遊びに誘ってこないし、オレから誘っても、断られて。  あの日以来の、涼真の部屋。  ……懐かしいな。 「どうした? ドア閉めて」  オレを振り返る涼真。オレは仕方なく、部屋に足を踏み入れてドアを閉めた。こんな風な形で、ここに入るなんて。  涼真は、窓をしめると、エアコンをつけた。 「窓あけといていいのに。風涼しいし」  そう言ったら、涼真は嫌そうにオレを見た。 「……お前の声、翔に聞こえたらどーすんだよ」 「……別にオ……翔に聞こえたっていいんじゃ……ねえの?」  やばい。オレっていうとこだった。  ねえの、は、途中で気づいて、翼っぽく言ってみた。 「は?……お前、ほんと、どーした? 良い訳ないだろ」  なんでイイわけないんだろ。でも、なんだかすごい圧を感じるので、オレは、涼真から少し離れて、スマホの入った鞄を涼真の机の上に置いた。  ……きっと、電話の向こうで翼、呆れてるんだろうな。  早く帰って来いって、思ってるかもな……。  っていうか、マジで帰った方が良い気がする。ばれそう。  翼がばらすならいいけど。  オレが、実は翔ですとかばらしたら…… 避けられて離れてったままのオレが、翼の顔でここに居るとかばらしたら、きっと、涼真、すげえ混乱するだろうし。  ……やっぱり、ばれない内に、帰ろう。 「涼真、オレ、今日頭が」  痛いから帰ると言おうとした瞬間、部屋の電気がぱちん、と消えた。 (2024/5/11) 前作+3000文字位。おかしなところも色々直しました。 ただ。話の流れは一緒です( *ˊᵕˋ )。

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