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ラブラブハッピー(笑)
「で、なんで丈瑠までいるんだよ」
稜との約束で、1週間後に焼肉にやってきたてつやは、待ち合わせた店の前で稜と一緒にいた丈瑠に眉を顰めた。
「てつやと焼肉行くって羨ましがらせようとしたら、俺もっていうから…丈瑠は自腹だよって言ったらそれでもいいっていうし」
稜が苦笑いでそう言うが…
「てつやこそ、保護者同伴で?」
てつやの隣に目をやって、軽く頭を下げる。
「いや、どうしてもついてくって言うからさぁ。まあ京介も美味い肉食いたいだろうしな。まあいいじゃん」
京介は、
「お久しぶりですね。丈瑠さんとは『センター以来』ですからかれこれ数年経ってて、時間の流れは早いっすね」
稜とは、てつやの仕事上会うことも多いが、丈瑠とは会う機会はそうそうない。 丈瑠も京介を確認してからちょっと緊張はしていたけど、『センター以来』の強調に『絶対に口走るな』という圧を感じて
「そうだね、久しぶり」
というだけにとどめた。(~反故~ 参照)
京介にしてみたら、丈瑠はイレギュラーだったが稜がバリタチと知っているのでてつやと2人きりで食事させるのはちょっと気がかりだった。
信用してないわけじゃないし、過保護なのは重々承知の上でついてきたが、丈瑠の存在も確認した今、やっぱりついてきて良かったと確信もしている。
店に入ると予約してあったこともあり、すぐに個室に通された。
結構いいお値段のお肉ばかりを注文した後ビールを煽って一息つく。
「冬でもビールは美味しいね」
そんなことを言いながらメニューのワインを眺めている稜は、先に着いたキムチ盛り合わせに箸をつけ、ーやっぱ日本酒かなーとページをめくった。
「でさ、早速だけど今日の本題だよ。柾哉くんがなんだって言うの?」
結局もう一回生ビールをタブレットで注文した稜は、てつやにむいて肘をつく。
てつやがーそれがさ〜ーと、顛末を話すと、
「え!?まっさんくんにと?」
流石に稜も丈瑠も固まってしまった。
「俺らもびっくりよ。まっさんノンケだし、急に男に告られたって聞いた時はびっくりしたわ」
「そりゃあそうだろうな。柾哉も随分思い切ったな」
丈瑠もびっくりしたままビールを一口。
「最初は俺たちもどうなんって思ったんだけどさ、でもまっさん 最初からまんざらでもなかったんだよなー」
次々と運ばれてくる肉を受け取り、稜に何皿か渡してテーブルに乗らない分は一旦自分の脇に置いたりと皿を捌いている京介に同意を求める。
「あの時のまっさんは、今思えば見ものだったけどな」
「確かに」
2人で笑って居るのを、まっさんの顔を思い浮かべた丈瑠と稜も見たかったなあと苦笑した。
「それで柾哉くん店辞めたんだ。それってかなりの覚悟だったはず…あの子も18?くらいで店に来たから、仕事あれしか知らないし…」
稜は話を聞きながら肉を網に乗せ、待ち遠しそうに見詰めたりしている。
「俺にあの店にいたことと、やってた仕事はまっさんに言わないでって言ってきてさ。健気なんだよな」
てつやはそう言ったあと
「でも、その辺はなんだかまっさんと話したみたいだよ。隠すことは無くなったみたみたいでそれはよかったんだけど…どう言う話になったのかどっちも教えてくれないんだよなー」
と面白くなさそうに言い募る。
「そこは2人だけの話にしといてやれって言ってる。なんでも首突っ込まなくて良いだろ」
普段から言って居るのか、京介がてつやの皿に肉を乗せながらちょっと嗜める。
「まっさんくんのことだから、きちんと話したんだろうな」
丈瑠も肉を取ってタレの皿に入れた。
「でも俺には柾哉の人となりなんてわからねえからさ、一通り俺の仲間コケにしたら許さないことは柾哉に伝えたんだよ。それでもあいつ、ちゃんと俺の目を見て応えてきたから大丈夫かなって、俺は思った」
「柾哉くんも、てつやの腕っぷし知らないからってこともあるだろうけど、そこまで言われてそう返してくるなら、本当にまっさんくんのこと真剣なんだね」
稜はちょっと羨ましそうに呟いた。
「はあ~なんか青春ドラマ見てるみたいだな」
と、丈瑠もなんだか羨ましそうに肉をつついた。
「そうなんだよ〜〜。もうさ、これに関しては2人がピュアッピュアで俺らが汚れて感じるわ」
などと冗談めかしててつやが言うがマジでそんな感じで、あの引越しの午後も中坊か!ってくらい…いや今時の中学生でもあんな可愛いいちゃつきはしないってくらいイチャイチャイチャイチャと見せつけてくれて、玲香すらーなんだかこっちが照れちゃいますねーと笑うほどだったのだ。
「あ、ねえ丈瑠、今度柾哉くんに連絡とってみてよ。お祝いしようよ。恋愛成就のさ」
ーまっさんくんも一緒にねーとウキウキし始めた稜に
「まあ先々どうなるかわかんねえけど、とにかく今はあいつらラブラブハッピーだから、それもいいよな〜」
てつやもそうウキウキと言い放つ。が、瞬時になんだその言い方、と京介がツッコみ、まったくだよ昭和の親父かって、と丈瑠にもつっこまれた。
「でもなんだかなー、みんな幸せなんじゃん~。僕はどうしようかな~」
「そいや稜はどうしてんだ?あんな強い性欲持ってて」
「てつや、言い方…」
京介に嗜められて、ああごめん、でも事実、と笑う。
「今はもっぱらマッチングアプリかな。ワンナイトばっかり」
「相変わらずタチ専門なん?」
「当たり前だよ、僕の身体は誰にも支配させないんだよ」
ふふん、と笑って肉を3枚ほど一気にお皿にとりあげた。
稜の昔の話は誰も知らなかった。ベラベラ話すたちではないが、この見た目でネコであった過去がないわけはないと誰もが思う。
まっさんにですらこんな事態が起こったのなら、稜の過去に何があったって変じゃない。
しかし人それぞれ色々あって今があるのだから、下手に詮索はせず楽しく過ごすのがいい。
「で、丈瑠は?柏木さんと一緒に住んでるのまでは聞いてるけど、進展あったのか?」
自動的に皿に入ってくる肉を自動的に口に運びながら、てつやはビールを煽る。(忙しい)
「あっちが俺のマンションに押しかけてきたんだよ。進展は…」
ゴニョゴニョいう丈瑠の左手首を稜が持ち上げて、てつやと京介の前に差し出してくる。
ん?と思った2人だが
「え?」
「ええ?マジで?」
そのくすり指にはまって居る指輪を確認して、丈瑠の顔を見た。
少々照れて、左手を戻すと髪を掻き上げる。
「俺が言わないとあの人動かないからさ!指輪ねだったよ。それだってお前が辞める時に言ってくれて今だぞ?おっせ〜わ」
あの頃よりは年齢が上がったが、相変わらず良い顔の笑顔で丈瑠は親指を突き上げた。
「へえ〜〜頑張ったなあ柏木さん」
京介は、その柏木とは遠目で一度見かけた程度で話をしたこともないので詳しくはわからないが、丈瑠が落ち着いたのには少々安心をする。
「じゃあそこんとこを詳しく聞こうかな、さあ飲め」
ジョッキを持ち上げて強引な乾杯をして、新たに鏡月をボトルで入れた。
その食事の後4人はハシゴして、夜明けまで飲み明かすことになった。
~おまけ~
「ところで京介。お前少し前に、まっさんに紹介したい人いるとか言ってなかったっけ」
ばあちゃんの荷物を運ぶエレベーターの中で、銀次にそう言われ、そうそうそうなんだよ、と今更ながらに思い出した。
まっさんには内緒で、みんなに相談してたことだ。
「うちの会社にさ、気風のいい姉さん気質の女性がいるんだよ。俺の同期でな」
「うんうん」
「結婚はいずれにせよ、彼女とかだったらそいつどうかなって思ってたら…あいつ彼氏がいやがったんだよな~」
「ああそう言うことね。残念だったんだな」
「もう、あんな男まさりで、人前で平気でキンタマとか言える女に彼氏!」
これはもう、例のてつやお気に入りのキンタマ空っぽ小林さんだ。(『それぞれの一日』の『チーフの憂鬱』参照)
京介はまっさんの役に立てなくて、1日ほど凹んだらしい。
「ぎゃはは、俺そう言う女性嫌いじゃない」
銀次が笑ってくれるとおり、自分も友達としては好きな方だったから、まっさんにどうかなと思ってたんだけどな、と。
「まあでもさ、良かったじゃん、まっさんもなんとかお相手できたことだし。男だけど」
「性欲発散につながるといいんだがなぁ…」
「そこよな、問題は。まっさん溜め込む人だから」
あっはっはーと笑って、開いたエレベーターのドアにタオルを突っ込んでしばし開きっぱなしにする。
待ち構えていたまっさんと柾哉に
「楽しそうな話してたか?笑い声聞こえたぞ」
「めっちゃ楽しい話してた」
にんまり笑って、台車と、そのほかの荷物を銀次は下ろす。
「後で聞かせろな」
のまっさんの言葉に
「いや、内緒」
と京介が応えて
「なんでだよ!」
と軽く一悶着。
下から、
「早く降ろせ、人が待ってる」
と階段経由でてつやの声が聞こえ、急いで4人で荷物を下ろす。
「じゃ、また次の便で」
銀次と京介は再びエレベーターで下へ降りていった。
「後はもう、成り行きに任せるだけだよな。まあやったやらないの報告も別にいらねえし」
「いらねえなあ…」
2人はそんな話をしながら一階へ降り立ち、積まれた段ボールの前で待っていたてつやに
「住人に迷惑かけんじゃねえ」
と、怒られ、待っていた人をまず乗せて一旦休憩。
「お前、オーナーっぽい」
「うん、オーナーだな」
「うるせーな。関係ねーだろ常識だ」
さっきの住人が、てつやを大家さんと認識したかはわからないが、ちょっとしたてつやの仕事の片鱗をみて、おもしろそうな2人。
今度みんなに話してやろう。てつやって本当にオーナーだったって…。
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