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プロローグ

 ロヴァティア王国の外れにあるロトロ侯爵領とロッカ伯爵領。この両方を治めるブランディーニ家当主ランベルトには二人の息子がいた。  ランベルトは長男エドガルドには将来ブランディーニ家を背負うに相応しい品行方正さを求め、そう教育した。結婚相手も身分に相応しい家から選び、エドガルドが三歳のころには許嫁を決めた。  次男レオネは長男の予備であると考えていた。貴族としては当然の考えだった。世相の変化に柔軟に対応できるよう結婚相手も決めなかった。  想定外の事が起こった。次男レオネが成長と共に周囲を驚かせるほど美しく育ったのだ。  ランベルトと妻ジーナの顔立ちは整ってはいるが貴族ではよくある程度。父母の良い所だけが絶妙なバランスで組み上がったのがレオネだった。  ランベルトはレオネの結婚にはブランディーニ家を大いに潤す可能性があると確信した。  レオネが十歳の頃、奇しくもこの国では力ある男性であれば男でも子供でも異国人でも妻にできる法ができた。これによりレオネの可能性はより広がったとランベルトは歓喜した。 「良いか、レオネ。女達とは沢山の親交を深め、求められられればできる限り応じろ。女と言うのは愛する男の最後の女になりたいものだ。沢山の女に求められて来たと言う実績はお前の価値になる。……だが、男とは駄目だ。いずれお前は殿方の妻となる可能性もある。男は妻の最初の男になりたいと思うものだ。だからどんなに求められても男には身体を許してはいけないよ。それはお前の価値を下げてしまうから」  レオネが父ランベルトからそう言われたのは十六歳の時。初めての夜会に出席する夜だった。  それから数年。  時代は蒸気機関車や蒸気船などが物流の要となり、大規模な工場などか次々と建設され、権力は貴族から商人へと移りつつあった。昔ながらの生活と伝統を守りたい貴族は資金集めに必死で、ブランディーニ家も例外ではなかった。  レオネには沢山の縁談が来たがランベルトはレオネの価値が年々上がっていると感じ、売り時を見定めていた。もはやブランディーニ家の存亡は長男エドガルドではなく次男レオネにかかっていると言っても過言ではない。  そんなこんなでランベルトが選び迷っているうちにレオネは貴族の結婚適齢期をとうに過ぎ、二十二歳となっていた。

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