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酒場2

 するともう一人の小男の方は丁寧に立ち上がり自らレオネに握手を求めてきた。 「秘書のウーゴです」  ウーゴとも握手を交わし、丸椅子に腰を下ろすと同時にジェラルドが口を開いた。 「君は貴族だろう」 「あ、やっぱり、わかります?」  レオネではなくカルロが身を乗り出しながら答える。ジェラルドはフン、と鼻で笑った。 「明らかに毛色が違うだろ。わざと安物を着ているようだが姿勢が良すぎる。さっきあそこで踊っていた時も明らかに浮いていた」  ジェラルドに踊っている姿を見られていたと知って、レオネはやや気恥ずかしくなった。するとウーゴが興味津々に聞いてきた。 「どちらの方なのですか?」 「没落寸前の地方貴族ですよ」  苦笑いではぐらかす。 「こいつね、しょっちゅうこの店で俺に絡んでくるんすよ。こんな色男がいるとね、大抵いい女は取られちまうからたまったもんじゃないですよ~」  カルロの話をジェラルドは適当に煙草を燻らせながら聞き流している。レオネは愛想の無い人だなと思った。 「お二人こそ、天下のバラルディ商会の方がなぜこの大衆酒場に?」  レオネがそう尋ねるとウーゴが答えてくれた。 「私達は明日港から出る船に乗るんですよ。今日サルヴィから出てきたので今夜はこちらの宿に一泊します」 「ここに泊まるんですか? もっといい宿あるじゃないですか」  海亀亭常連のカルロが海亀亭にまったくもって失礼な発言をする。まあレオネも内心は同意見だった。ここの二階は酔った客が買った娼婦と過ごすために利用するのがほとんどだからだ。 「ただ一晩寝るだけなのに高級ホテルに泊まる必要はない」 「なるほど。バラルディさんは芯が通ってらっしゃる」  ジェラルドが吐き捨てたそのセリフにレオネはフッと吹き出した。この男、大金持ちだがケチなのだろう。これから一緒に旅をするだろうウーゴは大変そうだ。 「払う価値があると思えばいくらでも使う。見栄だけで使っているとカネはあっという間に消えるものだよ」  レオネが笑ったことに腹を立てたのかジェラルドは貴族のレオネに、あからさまな皮肉を投げてきた。レオネは苦笑いしながらそれを受け止める。 「なかなか手厳しい。でもおっしゃる通りです。まさに私の父は見栄でカネを使う気質ですから」  レオネがあっさり意見を受け入れたことにジェラルドは少し驚いたようだったがさらに言葉を続けてきた。 「近頃どの貴族たちも行き詰まり始めているのは、収益が下がっているのに昔ながらの習慣や贅沢をなんの疑問もなくそのまま続けているからだ」  社交界では上らない話題。家の切迫した状況を他者へは漏らせないので公の場では話せないのだ。それをジェラルドは躊躇いもなく口にする。レオネはジェラルドに興味が湧いてきた。 「しかしだ、爵位は今でも最高の名声で誇りだ。我々商人には羨ましいものでもあるよ」  バラルディ商会トップが『爵位が羨ましい』と言うのは意外だと感じつつレオネは質問した。 「最近では貴族でも商人と同じような商売をする家もありますよね」 「そうだな。でも君たち貴族は金儲けは卑しいと思ってるんじゃないか?」  ジェラルドがニッと皮肉っぽく笑いレオネに聞く。 「ええ、そう考える人も多いですが、もうそうは時代が許してくれないんじゃないですかね」  それからレオネはジェラルドに商売をする上での考え方や、貴族の問題点、これからの予測など色々な話を聞いた。レオネにとっては予想外の発見や全く考えていなかったことも指摘されどんどん彼の話にのめり込んでいった。  話の序盤でカルロは別の友人に声をかけられ席を離れた。小一時間した頃には酒に弱いらしいウーゴが船を漕ぎ始め、ジェラルドに促され自分の部屋へ入って行った。  円卓に二人だけになっても二人は話し続けた。

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