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茶会2

 ジェラルドが屋敷に戻った時、ガーデンパーティは予定時間の半分が過ぎようとしていた。  自室て服を脱ぎつつ窓からは庭の様子をうかがう。  澄み切った青空に初夏の心地よい風が吹いていた。この二ヶ月、レオネは庭の世話に、招待客の人選に、と動きまっていたようなので、天気に恵まれて本当に良かったと思う。  庭は色とりどりの花が咲き誇り、着飾った人々が蝶のように庭のあちこちでパーティを楽しんでいるようだ。パーティ会場から少し離れた庭の奥には男女のカップルが数組出来ており、庭を眺める口実で愛を囁やきあっているようだ。 (せいぜい頑張れよ……)  やや馬鹿にした心境で見渡していた所、一組の男女が目に止まった。真っ赤な薔薇が咲き乱れたアーチの下に、ピンクのドレスを着た若そうな娘と、長い金髪の男がいた。男の方はレオネだとすぐにわかった。  咄嗟にジェラルドは窓横の壁に身を隠し、窓枠からそっと二人の様子をみるが、遠くて顔までよくわからない。良くないとな思いつつも書斎机の引き出しにあったオペラグラスを取り出し、再び二人の様子を覗き見た。  ジェラルドの部屋からの角度では娘は後姿しか見え無いが何やらレオネに必死に話しているようだった。むしろレオネの表情はよく見え、レオネは笑顔を貼り付けているものの少し困った印象。  最近、ジェラルドはレオネの愛想笑いが分かってきた。あの雰囲気の時は心から楽しんでいる訳ではなく、その場を和ませる為の社交術的な笑顔の仮面を被っている。状況から察するに娘から迫られ何とかあしらおうとしている、と言った所か。とジェラルドは予想したのだが……。  何か話していたレオネの顔がまるで薔薇の花が開くようにふぁっと高潮した。  赤くなっていることに自分でも動揺しているようで目を泳がせつつ何か必死に話をしている。そしてさらにレオネはくちづけるかのように娘に顔を寄せた。  ジェラルドは心臓がすくみ上がるような気がした。だがレオネはくちづけはせず娘の耳元に顔を寄せただけで何か囁いている。途端に娘の身体がビクッと震え、娘は両手で顔を抑えた。その後もレオネが何か言い、娘は首を何度も縦に振る。しばらくすると娘は一人でパタパタとその場を去り、一人残されたレオネは近くのベンチにヨロヨロと座った。  空を見上げるレオネの顔はまるで行為の最中のような色気を放っている。赤くなった頬や耳、伏せめがちで潤んだ目元がオペラグラス越しでも確認できた。 (あの娘を口説いていたのだろうか……)  ジェラルドの胸にザラリとした不快感が湧く。『適度に女性と付き合うことも認める』と言ったのは自分なのだが……。 ―――コンコンコンコン 「ジェラルド様、ドナートでございます」  ジェラルドはオペラグラスを引き出しに投げ込み「ああ」と返事をした。部屋に入ったドナートは全く着替えが進んでないジェラルドを見て眉をひそめる。 「ジェラルド様、お急ぎください。皆様お待ちですよ!」 「あ、ああ。すまん」  素直に謝り着替えを始めたが、頭の中は頬を赤く染めるレオネの顔でいっぱいだった。

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