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第4話 3分ボマー

ケイタには三分以内にやらなければならないことがあった。 それは、目の前の爆弾の赤か青のコードを切って、爆発を防ぐことだ。 ケイタは、爆弾にそっと触れた。 一人の男が狭い部屋で爆弾を作っている。 慣れた手つきだ。 ケイタは爆弾の作り方なんて知らない。 このままこの爆弾の記憶を視て、どちらのコードを切ったらいいかなんてわかるんだろうか? 着々と時間は過ぎていく。 ♢♢♢ ここ一か月で、物騒な爆発事件が相次いでいた。 最初の爆発は河原だった。 近くの警察に「今から3分後に◯◯川の河原に仕掛けられた爆弾が爆発する」と予告があった。 実際、3分後に爆発があった。 次は、公園だった。 同じく警察に予告があった。 公園の利用者に避難を呼びかけることはできたが、実際は3分もないので、全員がちゃんと避難できたわけではなかった。 爆弾は、ひと気のない木々の根本に置かれ、被害者はいなかった。 爆弾魔は『3分ボマー』というあだ名がついた。 爆弾は、どちらも熊のぬいぐるみの腹に仕込まれていた。 3回目の爆発は、月極駐車場だった。 夜間で被害者はいなかったが、近くの車に破片が飛んで、傷ついた。 3分ボマーの名前が定着すると、ついに大きな被害が出た。 ある無職の男のアパートが爆発した。 男は逃げたので助かった。 男は愉快犯で、3分ボマーを名乗って、商業施設や学校にいたずら電話をしていた。 男のスマホに、見知らぬ電話番号から電話がかかってきたらしい。 『私は、あなた方がいうところの3分ボマーです。よくも私の名を騙ってくれましたね。制裁を加えます。あなたの部屋の机の下に爆弾があります。三分後に爆発します』 男が机の下を見ると、本当に熊のぬいぐるみがあった。 男が貴重品を握りしめて外を出たところで、部屋は爆発した。 その事件があってから、3分ボマーのなりすましはいなくなった。 ♢♢♢ 「爆弾事件なんて、お前の出番じゃん」 マモルが言った。 「そんなことを言われても」 二人はショッピングモールに向かっていた。 マモルの新しいパンツを買いに行くためだ。 「それよりさ、パンツ買いに行くところに俺がついて行ったら、ヒントにならない?」 「あ、お前、さては、パンツ検定の復活を願っているな?」 「そう言われればそうだけど、それを肯定したくない自分がいるな。なんか、まるで俺がお前のパンツを欲しているみたいに聞こえる」 「俺が早乙女や金髪とお別れしたけじめとして、新しいパンツを揃えたいんだ。新しいパンツなら、検定可能だろ?」 早乙女や金髪と付き合っていくうちに、どんどんタトゥだらけのお兄さんたちと出会うようになったらしい。 マモルは怖くなって、足を洗った。 「まあ……俺たちはパンツで遊ぶくらいがちょうどいい人種なんだよな、きっと。検定やるならパンツは総入れ替えしてね。うっかり思い出のパンツなんか視た日には、たまったもんじゃないから」 「わかったよ。安心安全のラインナップで」 ショッピングモールに着き、ケイタは入り口のアルコール消毒液をプッシュした。 「真面目だな、ちゃんと消毒してる」 「………………」 「ケイタ?」 「3分ボマーが、このショッピングモールにいる」 「……マジで?」 「消毒液に、奴の独り言が残ってた。”あと10分”って」 「だからまだ避難のアナウンスがないのか。他に手がかりは?」 「わからない……片っ端から熊のぬいぐるみを探すしか……」 「……もちろん、俺たちだけ安全に逃げることもできるけど?」 マモルはケイタをじっと見た。 「……できる限り、俺は探す。マモルは、店の人に事情を話して、あとは逃げなよ」 「いや、今話したってどうせ通じない。俺もギリギリ一緒に探すよ」 「わかった。でもどこから探せば……」 「逆に、たくさんの人が触る消毒液で、なんでボマーの記憶だけ視えたの?」 「強い意思かな。ボマーの意思が、消毒液に残ってたみたいな」 「たとえば、この足元ならどう? 確実にボマーはここに立ってたわけで」 「そっか! やってみる!」 ケイタは、床に触れた。 雑貨屋の映像が頭の中に入ってくる。 「雑貨屋に行こうとしてたらしい。ツタがはってて、籠がぶら下がってて。木とかでデザインされた、ナチュラルな感じのお店」 「見回ってみよう!」 二人は走ってモール内を回った。 休日で人が多い。 こんなところで爆発したら大変だ。 一階の真ん中くらいに、そのお店はあった。 入り口に小物とぬいぐるみが一緒に置いてあった。 そのテーブルの下に、無造作に置かれた熊のぬいぐるみがあった。 「……これじゃない?」 マモルが言った。 ケイタはそっと触れた。 「これだ」 お腹は荒く縫い合わされている。 ケイタはほつれているところに指をかけて引き裂いた。 03:00 タイマーが露出して、ちょうど残り3分を告げていた。 モール内に警報が響いた。 『ただいま、爆破予告がありました。速やかに近くの出入り口から避難をしてください。繰り返します……』 「ケイタ、本物だ……」 「……解除できるか、やってみる。マモルは逃げて」 「俺も残るよ。俺はパンツ検定主催者として、お前の能力の出来に責任があるから」 二人は笑った。 マモルはお店の人に事情を話している。 俺は、爆弾処理の仕事をしているプロということになったらしい。 今日がエイプリル・フールでよかった。 ケイタは集中して、爆弾の記憶を読み始めた。 ♢♢♢ 一人の男が狭い部屋で爆弾を作っている。 慣れた手つきだ。 ケイタは爆弾の作り方なんて知らない。 このままこの爆弾の記憶を視て、どちらのコードを切ったらいいかなんてわかるんだろうか? 着々と時間は過ぎていく。 焦りでケイタの額から汗が流れた。 『視られている』 爆弾を作っている男の後ろから、もう一人の男の声がした。 『毎日、盗撮、盗聴のチェックはしている。大丈夫だよ』 爆弾を作っている男が言った。 『いや、視られている、確実に。俺と同じ、能力者だ』 『……じゃあ今回は、やめる?』 『それを作り始めたから、アクセスがあった。その爆弾が置かれた場所に、その能力者はいる』 『爆発した後の可能性は?』 『無い。爆発すれば、爆弾に残っていた記憶は吹き飛ぶ。記憶喪失になったように』 『う、うん。よくわからないけど』 『まだ見ぬ、俺の運命の人……。聞こえるかい。ずっと君を探していた。まもなく会えるよ』 『そいつがいるときに爆発したら、死んじゃうよ』 『どちらのコードを切ればいい?』 『青にしようか』 『そうだな、青にしよう。せっかくの赤い糸は切ってほしくない』 『だってよ、のぞきの能力者さん。偉い奴に狙われたな。がんばれよ』 『切るのは青だよ、間違えないで』 ♢♢♢ タイマーは残り10秒だった。 マモルが、雑貨屋のハサミを差し出して待っていてくれた。 青のコードを切ると、タイマーが止まった。 「良かった……止まった……」 ケイタがそう言うと、遠巻きにいた警備員と店の責任者たちが、一斉に胸を撫で下ろした。 それからが逆に大変だった。 マモルの口八丁でこんな話になった。 避難のアナウンスがあり、たまたま変な熊のぬいぐるみがあったので、開けてみた。 ケイタは工学部で海外ドラマの爆弾処理班シリーズが好きだったこともあり、爆弾を見て構造がわかった。 ギリギリまで警察を待ったが、間に合いそうになく、コードを切ったのだ、と。 にわかに俺は、有力な容疑者になった。 ♢♢♢ 「いい言いわけだと思ったんだけど……」 「うん、まあ、爆弾に詳しいってだけで、もう容疑者だよね……」 最近たびたび、警察に尾行されてると感じる。 「世界が敵に回っても、いつでもお前の味方だからな」 「うん。ありがとう。どこかで聞いた歌の歌詞みたい。すごく嬉しいはずなのに、お前の口八丁のせいでテロリスト容疑者になったと思うと複雑な気持ちだよ。まあ、そう言うしかなかったんだけどね」 超能力の説明よりはマシかもしれない。 「やっぱり、パンツ検定はためになってたと思うよ。再開しないと」 「あ、うん。でも色当てだけじゃ足りないかも」 「え……もっと複雑な形状のパンツを俺に穿いてほしいの……?」 「ちがうよ。たまにはパンツから離れようよ」 「早乙女がくれた、非日常のパンツあるよ」 「やめてよ。足洗ったんでしょ。絶対穿いてこないでね」 こんなくだらない会話を聞かされる警察も大変だ。

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