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心待ちと2

「大丈夫? 久々だと辛い?」 「ううん。懐かしい」 「懐かしいって」 颯太の肩が小刻みに揺れる。その振動が心地いい。 最近では滅多にこの体勢はないけれど、これもこれですごく幸せだ。 「……嫌なことでもあった?」 「ううん。ストレスでも溜まってるのかも。受験の」 「何かあったらすぐ話していいんだよ」 「うん。ありがとう」 鼻の奥がツンとする。 美しい日って、意味もなく涙が湧く。 ……本当は違う、けれど、そう。そうなんだ。 颯太は僕の頭を優しく撫でると、視線を満月に向けた。 「出会ってから一年が過ぎたでしょ? てことはもうそろそろ何の日が来る?」 「付き合ってから一年記念日、だね」 「せいか〜い」 六月五日。 あの日のことは、いつまでも忘れないと思う。 颯太が僕のところへやってきて、告白をしてくれた日。 「その日は木曜だから、その週の土曜にデート行こうか」 「……デートッ?」 起き上がりそうだった体を懸命に抑える。それで後悔するのは自分だ。 でも、デートという甘い響き。 興奮せずにいられるだろうか。 「可愛いなぁ、亜樹は」 「だってデート嬉しいもん」 「拗ねないで。俺も嬉しいよ」 「両想いだ」 「あーもう、やっぱり可愛い」 颯太の肩により体重をかけて、空を見上げる。 満月と、美しい星々。美しい、景色。 荘厳な煌めきと、目の前の幸福は、僕のことを守ってくれるようだった。

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