638 / 961

凛々奮闘記18

「……凛? 今日おかしくねー?」 「……そんなことない、よ」 「いやいや、口調からしておかしいだろ」 たかちゃんが近づく気配がする。 ならおれは絶対に枕から顔を上げない。 こんな感情に気づかれたら、恥ずかしすぎる。そもそもたかちゃんが嫌がるかもしれない。だっていつでも恋人をかっこいいとしか思えないなんて、気持ち悪い。変人だ。 それに前みたいに接することができないのも、たかちゃんは嫌だろう。 「疲れたのか? 体痛い?」 「……たかちゃんこそ、今日は優しいじゃん」 「いや、まあ……負担かけてるし……」 枕に顔を埋めたままくぐもった声を出す。視界に入らなければ平気だ。 いつも通り。いつも通り。 互いに遠慮がなくて、おれの方は割とわがままで、よく抱きついて。 ……無理かもしれない。少なくとも最後が、無理かも。 逆になぜ昔のおれはできていたのだか不思議なくらいだ。 「優しいたかちゃん、変」 「んだよ、それ。優しくねーほうがいいのか?」 「普通でいい〜」 「ははっ。お互い普通が一番だな」 ボディタッチは減るとしても、あとはどうにかなりそうだ。 うん。平常心。平常心。 「昼何食いたい?」 「パスタ〜」 「わかった。じゃあ作ってくるから待ってろ」 「うぃ〜」 バタンッとドアが閉まる音。 何はともあれとりあえず目標達成ということだ。 思わぬ副産物があれど、よくやったと思う。 亜樹くんにお礼を言わなきゃな。 たかちゃんの気配が完全に消えてから顔を横に向ける。 カーテンの隙間から差し込む太陽の日差しが眩しかった。

ともだちにシェアしよう!