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番外編[いばしょ②]

目を開ける。 「……蓮くん」 「おはよう、姫野」 目の前には蓮くんがいた。柔らかい微笑みを向けながら、ボクの頭を優しく撫でてくれている。見たところずっと撫でていたみたいだ。 「嫌な夢でも見たのか?」 「……ううん」 小さく首を振るボクを見て、蓮くんはボクの体を引き寄せた。蓮くんの裸の胸板にボクの素肌が擦れ合う。背中に腕を回されて、優しく抱きしめられた。 とくんとくんと蓮くんの鼓動が聞こえる。落ち着いていて、静かで、大切な音。 「どんな夢?」 「見てないって言ったのに……」 「さすがに見抜けるよ」 「ずるい」 ボクは蓮くんの胸の中で拗ねる。ごまかしたボクもボクだけど、聞いてくる蓮くんも蓮くんだ。 髪の毛にキスされる。大好きな蓮くんの唇の柔らかさ。髪の毛越しにも伝わってくる。 そっと温かい背中に腕を回す。 「ご両親の夢?」 「……うん」 「俺がそばにいるよ。俺が守るから、姫野は俺の腕の中にいて」 背中と、頭と、優しくさすられて。ボクは大好きな胸板に頭をつける。額が鎖骨に当たって、自然と目を開ける。 そっと唇を寄せて、強く吸ってみた。こんなことやったことないけれど。蓮くんにボクの印をつけたいと思った。 「ついた?」 「……ちょっぴり」 「そっか」 蓮くんがボクの顔をおかしそうに覗きこんでくる。ボクのつけた跡は、あまり残っていなかった。見るからに下手くそだ。 すると蓮くんがボクの鎖骨あたりに顔を寄せる。ちりっと痛みが走った。 「こうやってつけるんだよ」 「……見えない」 「見えなくても、ちゃんとあるよ」 蓮くんはボクの瞳をしっかり見つめる。綺麗な眼差し。ボクとは違う。でも、ボクのそばにある眼差し。 ボクはそっと瞼を下ろした。 「……ん」 唇が重なる。幸せだ。 蓮くんの隣が、ボクの、生きる場所。生きていていい場所。 カーテンの隙間から差し込む朝日が、まるで祝福してくれるみたいだった。

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