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番外編[欲と羞恥①]

「マァ、ミィ、ムゥ、久しぶり〜」 「おかえり、凛」 「あ、ただいまー、母さん」 「昼食そろそろできるから」 「はぁい」 凛が玄関の水槽に挨拶をしていると、たまきがリビングから顔を出す。たまきは水槽と凛を交互に見て小さく笑うと、すぐにリビングに戻った。 凛はスーツケースをフローリングの上にあげると、水槽の前でしゃがんだ。大きな水槽には赤い金魚二匹と出目金が一匹泳いでいる。凛は金魚を指で追いながら、口角を上げる。 「元気してた〜?おれいなくて寂しかった?」 凛は水槽にご機嫌な様子で話しかけながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。指で画面をタップして電話をかける。 ほんの三コールほどで相手は電話に出る。 『凛?家着いた?』 「うん、着いた〜」 相手は凛の恋人の隆司だ。帰省時期が被らなかったので、実家の方で会えそうにはなかった。 「あのね、マァミィムゥ元気そうだよ」 『そっか。なんて言ってる?』 「おれがいなくて寂しかったって〜」 『だろうなぁ』 電話の向こうの隆司の声には喜色が滲んでいる。微笑ましそうに小さな笑い声を漏らしていた。凛の表情は隆司の声を聞くたびに緩んでいく。 「マァミィムゥあとでね」 凛は水槽に手を振ると階段を登り始める。階段のすぐ右の部屋が凛の部屋だ。そこに入り、スーツケースを勉強机の横に置く。そして凛はベッドに腰掛けた。 「たかちゃん今何してるの?」 『んー?テレビ見てる」 「そっかぁ……」 『残念だな。帰省被らなくて』 「うん〜……」 凛はパタパタと脚を揺らす。スマートフォンを握る手に力が入る。その顔から笑みは消えていないが、豊かなまつ毛が目元に影を落としていた。 「凛ー!ご飯!」 「はーい!」 『飯できたって?』 「うん……」 『夜、俺からかけるから』 「わかった〜」 凛はぺたりと顔に笑みを貼り付け、明るく返事をする。そして凛と隆司は互いに別れの挨拶を交わし、電話を切った。 凛はスマートフォンを勉強机に置くと、部屋を出た。

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