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いざ沖縄4

はにかんで颯太を見る。 「あ、颯太」 「ん?」 「一番上まで閉めなくてもいいけど、ネクタイはせめてきつめにしよ」 「確かにその方がいいかな」 颯太はワイシャツを緩めに着る人だから見え方によってはチェーンの光が目に入る。 僕は颯太のネクタイを掴んで普段よりきつめにした。 満足して席に収まり、シートベルトを締める。 「ひっ」 そしてなんの気はなしに前を見れば、座席の上から目が覗いている。下手すりゃホラーだ。 「こ、小室くん……」 「松村も前言ってたけど、やっぱ夫婦だね」 「あ、えっと……」 「ちょっかい出すなって」 「うわ」 もしかして今のを全て観察されていたのか。ホラー感満載のあの感じで。 焦っていれば小室くんの顔はすぐに座席の向こうへ消えた。轟くんがまた乱暴に引き戻したのだろう。 「ひゃっ」 安心したのも束の間、今度は座席と座席の間から腕が伸びてきた。 「これあげるよ。昨日見つけた」 「へ……ありがとう……」 小室くんから渡されたのはクッキーだった。リスとかうさぎとか色々な動物の形を模したやつ。食べるのがもったいないくらい可愛い。 わざわざ買ってくれたのだろうか。嬉しい。やっぱり少し不思議な人だと思う心はあるけれど。 「渡すんなら普通に渡せって」 「いてっ」 「バス動くぞ」 またもやすぐに轟くんの手によって腕は引っ込んだ。そしてその言葉通りバスが動き出した。 貰ったクッキーはあとで颯太と食べよう。 パッケージを眺めてくすりと笑みを零すと、カバンに丁寧にしまった。 窓の外の景色は次々過ぎていく。バスのように車より高い位置だと流れる景色をぼんやり眺めるだけで楽しい。 空港に時々思いを馳せながら僕はバスに揺られ続けた。

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