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𝐷𝐴𝑌 𝟙 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟝

 「ささっ、こっちです!坂を上がればすぐですよ!足元気をつけて」  坂の下に停めた軽自動車から降りて来た男二人。急な坂をゆっくり上がっていく息を切らしながらジャケットを手に持ったスーツ姿の男、もう一人その後ろに続いて歩く男は涼しい顔で疲れを見せず力強い足取りで坂上る。  キシキシと音をさせた錆びた階段は今にも崩れそうで老朽化が進み、住むには少し心配が多い二階建てアパート。    「ここです。それにしても本当にいいんですか?、、こんな年季の入ったボロアパートで」  「いやこちらこそ無料(タダ)でいいんですか?古いとは言えさすがに、、」  「全然いいんですよっ!いやねこのアパート秋に取り壊す予定でね、今はもう誰も住んでませんし」  「助かります」  築古のアパートは外観だけではなく室内も壁や畳の痛みが目立っていて人が住むには難がありすぎるが、それも了解の上でここへ来た男は何者か。  「あっ改めて挨拶を!このアパートのオーナーの高瀬(たかせ)といいます」  「よろしくお願いします。真壁礼(まかべれい)です」  この日が初対面の二人は名刺を交換し、高瀬は早速室内の説明を始めた。  「えっとー今回は須野海岸のライフセービング事務所から聞きましてお部屋をご用意させていただいたんですが、、何でまた須野に?」  「、、何でと言うのは?」  「いやここに他所(よそ)からライフセーバーが来るなんて初めてなもんでね」  「あー別に深い意味はないですけど」  「ここだけの話ですけどね去年、水難死亡事故あったじゃないですか!?それで来たんじゃないかって。あーっいや、、言えないなら全然いいんですけどふと気になったもんで」  ヒソヒソ話をするように礼に近寄り気になった質問をぶつけた高瀬。天井から垂れ下がる古い照明器具の紐を避けながら薄ら光が漏れる窓の前で止まる。  「それとは特に関係はないですよ。それはちゃんと調査を行って結果報告も聞いています。この窓開けても?」   「えぇもちろんです。ただ立て付けが悪くて開けるコツがあります。ちょっといいですか」  両手で窓の淵の掴み勢いよく手前に引くように左にスライドするとガタンと大きな音を立て、サッシの埃が舞いながら窓が開いた。ドヤ顔を決めた高瀬を見て苦笑いを返す礼。  「こうすると開きます!」  「なるほどー…覚えておきます」  「どうですか!?見てくださいよ。ここから見える景色は最高でしょう!アパートは古いですけどね高台で立地はいいですからっ」  「そうですね、気に入りましたよ」  目の前には須野海岸の海が広がる。なんだかすぐ側まで波が押し寄せてきそうなほど間近に感じる不思議な感覚。 礼にとって初めて訪れた場所や海はいつだって好奇心を駆り立てる麻薬のようなもの。この仕事を初めて12年ずっとそれは変わらない。  「真鍋さんは色んな海岸でお仕事を?」  「まぁそうですね。自分は全国の海岸を回ってそこでの状況を把握したり、長くいると気付けない危険やライフセーバー達のレスキュー、日々の動きを見て必要であれば指摘改善する。まあ不動産業でいう物件を回って現状の把握、欠陥があれば修理またはリフォームを行う。自分はそんな役割でここへ来たと言えばわかり易いですかね?」  「おー!なるほど!上手い事言いますね〜」

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