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𝐷𝐴𝑌 𝟞 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟘 ③

 初日から救急車が出動する事態になった午後の須野海岸。もちろん何も起こらない事が理想だが起きてしまうのが自然界の怖いところ。 だからこそライフセーバーと言う存在がいる。  浜辺を歩く礼の前から歩いてくる黄色のユニフォームは海の沖合の方を見ながら大股でザクザクと砂を蹴って向かってくる。 昨日も今日もまだ見かけない顔に礼が先に話かけた。  「あーっと、、すいません初めましてですよね!?」   「ん?はい、こんにちは!」  「自分は真壁礼っていいます。ライフセービングー…」  「あー!聞いてます聞いてます!協会から1人くるって。へえ〜思った以上にイケメンですね〜どうです!?須野の海は!?あっ俺、|国武《くにたけ》つばさです。一応副キャプテンやらしてもらってて、この近くに住んでます。それからー…」  噺家(はなしか)かと言うくらい次々と言葉が飛んでくるつばさの身振り手振りのジェスチャーは徐々に距離がなくなって顔のすぐそばまで来る。 礼は少し体を反らせながら小さく頷きながら聞いていた。  「自分はまだ来たばっかりでまだ須野をよく分かってなくて。そういえば東さんから試合って伺ってたんですが今朝お帰りに?」  「そうです。さっきそれで東に遅いって怒られてたとこですけどね、はははっ」  すると"つばささーーん"と車道から聞こえ声は明らかに幼く、何だろうと振り向くと学校帰りだろうかランドセルを背負った小学生二人組。手を振って返事するつばさは地元で人気の良いお兄さんの風格を出していた。    「あー、あの子達は地元の学校の子で去年からここで夏休みにやってるサーフィンスクールに通ってる子達なんですよ」  「そうなんですか?もしかして、国武さんがコーチを?」  「いや俺は選手しながらライフセーバーしてて教えてはいません。それにしても今日みたいなほとんど風がない日は海水浴客としては条件いいですよね、波乗りとしては少しつまんないかなーって。あっ!すいません。俺サーフィンバカで一日中サーフィンのことばかり考えてます。どうせ東にそのうち言われるだろうから先に言っちゃいましたっ!あはっ!」  「東さんと国武さんは昔からのお知り合い?」  「10年くらいの付き合いですかね。あっそれと、つばさって呼んでください。ここで俺の事を名字で呼ぶ人いないんで!気軽に!しばらくはこの海を守る仲間ですからね」  天性の人懐っこい子キャラと物怖じせずポジティブな性格がまさにサーファー気質と言える。 あまり進んで輪の中に入っていくタイプではない 礼にとってはありがたい存在。  "つばさこっち戻ってきてくれないか"手にした無線機から東の呼び出しがかかる。  「あー呼ばれたんで行ってきますね。ではまた!」    ◆◇◆◇◆  「ありがとうございましたー!」  夕方Rock the Oceanの昼の営業は終わり、入り口のプレートは裏返され"CLOSE"に変わった。夜のバー営業に向けしばしの休憩と準備時間に入る。  『疲れたしお腹空いた』    客のいなくなった店内で、ぐでっとテーブルに突っ伏した麻比呂の腹の虫がなるとキッチンで料理をしていた父親が大きなどんぶりをにしてホールに戻ってきた。  「麻比呂これ食ってみろ」  『なにこれ?』  「新しく考案した新メニュー!その名もパワーダブルピリ辛ロコモコ丼だ」    名前の通り料理はロコモコ丼。分厚いハンバーグが2枚重なり、その横に目玉焼きに野菜そして辛味ペースト添えられ通常メニューの倍近い量になっている。  「今こういうデカ盛りみたいなのが流行ってんだろ。今日から販売するつもりだったが、間に合わなくて試食してみろっ」  『俺辛いの苦手だし』  「それなら今日はご飯なしだぞー」  しぶしぶ箸を持ってちょびちょびと口に運ぶ麻比呂。相当お腹空いていたのか気付いたら半分をあっという間に平げていた。  「どうもー!休憩中に悪いね。外暑くてさ何か飲む物もらおうかな」  外から声が聞こえ鍵の閉まってた入り口の隙間から見えた馴染みの顔に気づいた麻比呂は、口をモグモグと動かしながらドアを開けた。 日が暮れかかった夕方でも25度と高い温度をキープしている野外と、エアコンの効いた店内の差は大きく店内招き入れるとすぐに閉めた。  『んっ、高瀬さんこんにちは』  「麻比呂君、何食べてんの?美味しそうだね同じものもらおうかな」  『やめといたほうがいいですよ。毒味させられてるだけですから』  高瀬はこの店の常連でもあり店長の父親と同級生の腐れ縁だ。仕事の合間にふらっと立ち寄り飲食をしながらちょっとした世間話をするのが日課になっている。  「今頃ご飯食べてるって事は相当忙しかったんだね、海開き初日から景気が良くていいね」  『良くないです。ケチってバイト雇わないからこき使われてるんです」  「ははっ、そうなんだ?じゃその分しっかりバイト代もらいなよ」

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