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𝐷𝐴𝑌 𝟞 ⇨ 𝐷𝐴𝑌 𝟙𝟘 ④

 「タカちゃんいらっしゃい!麻比呂、聞こえてたわよ。学生のバイトの子たちは、来週からくるから少し辛抱してって言ったでしょ」  そう言いながら奥の部屋から出てきた母親に"ヤバっ"の表情した麻比呂を見て高瀬はヒヒっと笑いながらカウンター席に座る。  ごまかすようにロコモコ丼の残りを口に運んでいく。高瀬にアイスコーヒーを出した母親と高瀬はリラックスモードで話始めた。  「ほら、あの取り壊し予定の古いアパートに入居者入ってさ」  「えっ?あそこに?どんな人?」  「それがライフセーバーのイケメン兄ちゃんなんだよ。確か29歳って若いのに落ち着いて大人っぽくて、あれはこの夏は彼目当ての女子達いっぱい来るぞ」  「へぇ〜是非会いたいわ」  そんな高瀬と母親の会話を口を動かしながら耳だけ傾けて聞いていた麻比呂。そんな遠くから特にライフセーバーが不足しているとも思えない須野に新しい人が来るなんて何年ぶりだろう。 もしかして朝の祈願祭で見かけた人かな?とか風貌を思い出しながら。  「とりあえずこの店も宣伝しておいたから来たら安くしてやってよ」  「いいよ。その分タカちゃんのツケにしておくわね!」  外出中の父親を待ちながらキャハハと盛り上がる声をBGMに日の暮れかかった海をガラス越しに見て、気づけば空になったどんぶりを"ごちそうさま"とお皿と箸を持って席を立った麻比呂。皿洗いは慣れたものだ。  "お荷物二個ね〜"キッチンの裏手の出入り口から配達員が段ボールを抱えて顔を出した。これもいつもの光景で馴染みの配達員が手渡した伝票にサインをして忙しく出て行った。  『お母さん荷物来たけど』  「あーそれ、ショップのやつだと思うから出しといてくれない」  『えー面倒くさい。あとでー…』  お喋りに夢中な母親には麻比呂の声は聞こえていない。仕方なく二つ重なった段ボールを同時に持ってショップに運んだ。  カフェの真横には水着や浮き輪や最低限の海水浴グッズなどをおいた小スペースがある。海開きとともにいつもより多く発注した荷物を開けた。  すると一番上に見えたのは"Wave Style 8月号"と大きくタイトルが書かれた雑誌、サーフィンの専門月刊誌だった。 "R-23 ウィングカップ選手権優勝!浦上周太朗(うらがみしゅうたろう)2連覇!!" デカデカと目に入った文字にページを捲らずにはいられなかった。毎年春に行われる23歳以下限定の大会の特集記事だ。 うねる波にピッタリと同化したロングボードに乗る、見た目はさほど麻比呂と変わらない年齢の男が表紙を飾っている。中には写真とインタビュー数ページに渡って掲載されてた。  ――浦上選手、2連覇おめでとうございます。  「ありがとうございます」  ――昨年に引き続き今年も優勝ということで素直な気持ちをお聞かせ下さい。  「波のコンディションも良くて自分の中でも2連覇を夢見て挑んだ今回の大会だったのでほんとにうれしいです」  インタビューでは喜びを語った後、これまでの苦悩や大会にかけた思い当日の試合の様子などを語っている。麻比呂の文字をなぞる視線は止まらず夢中に見入っていた。  ――では最後に来年の挑戦を聞かせてください。  「はい、来年は23になる歳なのでウィングカップ選手権は挑戦ラストイヤー。もちろん3連覇狙っていますよ」  ――3連覇と言えば過去に|由井樹未斗《ゆいきみと》が打ち立てて破られてない記録ですが、タイ記録に挑戦と言うわけですね。  「3連覇を達成した試合、ちょうど見に行ってました。その頃まだ僕はボードを触ったばかりの素人同然でただただ圧巻で感動したのを覚えています」

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