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その6
目を覚ましたら寝室だった。それはまあ良い。
サイドテーブルの目覚し時計を見たら午前三時だった。それもまあ良い。どうせ今日は祝日だし、部活も無い。
問題なのは身体がすさまじく気怠いことと、
「ん゛……♡む゛……♡ぅ゛、ぉ゛……♡」
一先ずダイニングに行って水を飲もうとしたら、真っ暗な脱衣室から男性のくぐもった声がしたこと。瀬津かと思い慌てて耳を澄ませても声色が違うし、機械の駆動音まで聞こえてくる。
嫌な予感がした。
扉を開けるのを躊躇わずにはおけない予感だった。
そこで寝ぼけた頭が一緒に覚醒し、脳内に寝落ちするまでの記憶が復活する。すなわち「瀬津がゴリラのオナホになり」、「書斎で妄想の瀬津と王様ゲームをし」、「妄想の瀬津に弁の奥をこじ開けてもらった」──。
「ひっ……」
いや、妄想ではなかった。証拠は今まさに俺の後孔から滴り落ちてきている。それも結腸方面ではなく子宮方面から。
ということは、俺は本物の瀬津に抱かれたのか?
ゴリラは瀬津をオナホにしなかった?
あんなみっともない姿を、瀬津に……。
……何はともあれアフターピルを飲まないと。
「久人」
「うぉっ」
と、踵を返した瞬間に足がすっかり止まったのは、背後にその瀬津が立っていたからだ。俺が脱衣室の棚に用意しておいたTシャツを着ている。ゴリラへ向けた物の筈なのに。
「ん? ……ああ、これか。彼シャツだ」
俺が訝しんでいれば、彼はまた色ボケたことを満足げに言う。よく見れば下も俺のハーフパンツだった。
それはともかくだ。
「あのゴリ……先輩は?」
「大沢 先輩ならそこだが。何だ、用でもあるのか?」
そこ。
と言って瀬津が顎をしゃくったのは、脱衣室だった。低い嬌声が今も漏れ聞こえているそこ。機械音が囁かに響くそこ。
嫌な予感が急速に現実味を帯びていく。
「……もしかしてこの向こうは……」
「先輩を拘束してバイブを突っ込んでいる」
──ああ、ちゃんと床を汚さないようにカテーテルを嵌めているから安心してくれ。
などと瀬津が言ってのけるが、もちろん安心などできるものか。如何なる事情があれひとのケツにバイブを嵌めて拘束するのは何かしらの法律に触れているに違いない。俺は慌ててドアノブを捻り、後ろで「久人」と呼ぶ声も無視して戸を開け、電気も点けた。
「っん、んん゛ん♡」
果たしてそこには、バイブを尻に突っ込まれポールギャグを嵌められ善がり狂うαの姿があった。赤黒い巨根から伸びるカテーテル、その先端には一・五リットルのペットボトルが繋いであるが、三分の一も白濁に染まっている。
唖然とする俺の横をすり抜けて犯人……もとい瀬津がゴリラの眼前にしゃがみ込む。
「へえ、もうこんなに貯めたんですか。少し前立腺いじられただけでこんな無様を晒すなんて、『チョロ過ぎ』ですね」
「んーっ!」
瀬津の嘲笑にゴリラが暴れる。傍目に見ても言いたいことがありそうな感じだ。俺は瀬津に視線をやった。瀬津も、まあ多分に面倒臭そうではあるがポールギャグを外してやった。
するとゴリラは少し咳き込んだのち、
「瀬津しゃまぁ……♡」
だらしないにも程がある笑顔を浮かべ、瀬津の足に身体を擦り付け。
足蹴にされて、恐らくイッた。
明らかにαが、いや、ゴリラのように他のαを雌にすることを生き甲斐にするαがしていいイキ方ではなかった。どう見てもこれは雌のマゾヒストの作法だ。
何故こんなことになったのか。
助けを求めるように瀬津を再度見遣れば、彼は「少し長い話になるぞ」と前置き、
「全ての始まりは──久人、お前だ」
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