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嬉しい独占欲

「ずっと紘の話を聞いているだけで気になっていたけれど、敦己と初めて会った瞬間、そのわけがわかった。私は紘に話を聞いていた時から敦己を好きになっていたんだって……」 「話だけで……?」 「紘が他人に興味を持って心配すること自体珍しいと思っていたんだ。負けず嫌いの紘なら、同期なんて尚更興味を持たないはずなのに、会うたびに話を出してくるし、心配しているし、その上頼りにしてるなんて……信じられなかったよ。だから敦己のこと、一体どんな人なんだろうって気になっていた。彼女と付き合って如実に疲れていることが多くなったって聞いてからは、紘よりも私の方が気になってきて……普段メッセージなんて送り合わないのに、敦己のことだけはよくメッセージのやりとりしてたよ。あの日、紘が敦己とあってすぐに私に連絡が来た。何かあればすぐに呼ぶからできるだけ近い場所にいてほしいって。だから、紘の家の近くのカフェで連絡が来るのを待ってたんだ .」 「だからあんなに早かったんですね」 「ああ、ずっとこんなに見守ってたなんて知られたら引かれるかと思ってたけど……やっぱり引いたかな?」 「そんなこと……っ、あの時、本当に心細かったからすぐに来てくれてすごく安心しましたよ。あんなことがあって、絶対に寝られないと思ったけど、誉さんのベッドに入ったら誉さんに包まれたような気がして落ち着いたんです――ああっ!! そっか、そうだったんだ!」 今わかった。 あの時、なんであんなに安心できたかって……。 「どうしたんだ?」 「僕も誉さんのこと、最初から好きだったみたいです。だから、誉さんの匂いに安心したんですね――わっ!!」 「敦己っ、これ以上煽らないでくれっ!」 急に誉さんに抱きしめられて、ふわりと誉さんの匂いに包まれる。 うん、やっぱり安心する。 「敦己……キスしたい」 「は、はい。僕も、したいです……」 ド直球なおねだりに僕もつられるように答えてしまった。 すると、ゆっくり誉さんの顔が近づいてくる。 端正な顔がどんどん近づいてくるのを見ていられなくて、きゅっと目を瞑ると柔らかくて形の良い唇が僕の唇に重なった感触がした。 ああ、僕……今、誉さんとキスしてる……。 このまま深いキスまでしちゃうんだろうか? 舌を絡ませ合うのがなんとなく嫌であまりしたことはないけれど、誉さんとはしてみたい気もする。 でも、僕から誘うのは……ともだもだと思っていると、誉さんの舌が僕の唇をノックする。 緊張しながらほんの少し唇を開くとスッと肉厚な舌が滑りこんできた。 「んんっ……んっ」 僕の舌に吸い付きながら誉さんの舌が口内を縦横無尽に動き回る。 クチュクチュといやらしい音を立てながら絡み合う舌が気持ちよくてたまらない。 これが恋人同士のキスなんだ……。 愛し合ってるというのが敏感な粘膜を通して伝わってくる。 ずっとキスしていたいくらい気持ちがいい。 ああ、これなら由依が僕とのセックスに不満を持っていたのもわかる気がするな。 だって、そういう雰囲気を出された時に重ねるだけのキスばかり。 今思えば、それも由依の機嫌を損ねないための義務的なものだったのかもしれない。 自分からは深いキスをしようともしないし、そもそも裸になるのも見るのも恥ずかしくてできるだけそんな時間を早く終わらせたいとさえ思ってた。 恋人になったらしなきゃいけないものという義務感でセックスしてた気もするし。 溜まったらわざわざ由依とするより、自分でした方が楽で良かったし。 数ヶ月なくたって別に問題なかったしな。 恋愛やセックスよりも仕事の方が楽しかったから、男として不能だと思われていたのかもしれない。 でも、違ったんだ。 誉さんとなら、ずっとこうしていたいと思う。 愛するってこういうことだったんだな。 ゆっくりと誉さんの唇が離れていく。 瞑っていたはずの目は知らない間に開いていた。 余裕のなさそうな誉さんの表情にドキドキする。 きっと僕も同じような表情してるんだろうな。 だって、ほっぺたがすごく熱い。 「誉さん……キスって、こんなに気持ちがいいんですね」 「――っ!! 敦己っ、あんまり煽らないでくれ」 「でも、僕……もっとキス、したいです」 「くっ――!!」 誉さんの余裕のなさそうな顔が近づいてきて、ちゅっと重ねられる。 下唇を何度も何度も喰まれて、身体の奥がキュンキュンと疼く感覚の中、気づいたら服を脱がされていた。 そのままベッドに押し倒されて、ゆっくりと誉さんの唇が離れて行った。 僕の耳たぶにちゅっと触れた後、首筋を這いながらどんどん下りていく。 「んっ!」 ちくっと軽い痛みを感じて思わず声が出てしまった。 「痛かったか?」 「あ、なんかピリッとして……」 「私のものである証をつけたんだ。もう誰のものにもしたくないからな」 「誉さん……」 「いいだろう?」 真剣な眼差しの中に見えるその独占欲がたまらなく嬉しくて、僕は 「もっと、つけて……」 とおねだりしてしまっていた。

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