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第48話:楓side

その笑顔を、瞳を見た時に気付いてしまった 中学で一緒になった尚也 最初は同じクラスのやつって認識でしか無かった 大人しめでよく俯いていて表情があまり見えない そんな尚也とは、たまたま委員が一緒になった事で話すようになった 月に2回程、昼休みと放課後に仕事をする図書委員 昼休みに図書室にやってくる生徒なんかほとんどいなくて「ヒマだな。」なんて俺から声を掛けたのが始まりだった 軽い相槌か頷くだけか無視か、、、 そんな風に思っていた俺に「ほんとになー。放課後ならまだしも、昼休みにくる人なんてあんまいないでしょって思う。」なんて想像と違った返しに驚いた そんな俺を不思議そうな顔をしながら「どうした?」と問いかける尚也に「いや、なんかイメージと違ったな、みたいな?」なんて自分でもよく分からない事を言った俺に「なんだそれ。」って言いながら笑顔を見せた尚也に思わずドキッとしたのを覚えてる あの時のあの笑顔に一目惚れしたんだと今なら分かる 初めは図書室でだけだった会話も、教室でいる時や移動中も話すようになり、気付けば一緒に帰るまでになっていた 誰とも話さない大人しい奴だと思っていたけど、本当は人見知りで上手く会話が続けられないからだと言う事も知った 俯きがちだからあまり知られてはいないけど、実は綺麗な顔をした尚也は密かに人気があるという事も知った そんな尚也が俺といてくれる 変わらず他の人と話す事が少ない尚也が俺には自分から話しかけてくれる、笑顔を見せてくれる 優越感を感じていた こんな尚也を見られるのは俺だけなんだと それから半年が経った頃 「家で一緒にテスト勉強しない?」と尚也が誘ってくれた その時にはもう2人で一緒にいるのが当たり前のようになっていて、周りからも俺と尚也はセットのように言われていた だから家に誘って貰えた事はほんとに嬉しかった 放課後、尚也の家に向かい尚也の部屋で1つのテーブルに教科書とノートを広げ、時には雑談をしながらテス勉をした 暗くなってきた空に「そろそろ終わるか!」って言いながら立ち上がった尚也に「そうだな」って小さく呟いた "もう少し一緒に居たかったな...." と放課後の短い時間を恨めしく思いながら少し乱雑にカバンの中へと教科書を入れていく 部屋を出て、尚也の母親に挨拶をして「見送る!」と笑顔で言う尚也と一緒に家を出た すると、隣の家から「なおや!」と声が聞こえた 視線を向ければ見た事のある制服を着た男の人が丁度帰ってきた所だった その男の人を見た瞬間、尚也の表情が変わった すぐに走って近寄り嬉しそうに笑顔で話しかけるその姿に俺の心がざわついた 「はるにぃ!今帰ってきたの?」 「あぁ、友達と行くとこあったからさ」 「そうだったんだ!」 「尚也は友達来てたの?」 「そう!楓ー!ちょっとだけいい?」 そんな会話が聞こえてきて尚也が俺を呼んだ 駆け足で近寄れば 「俺と同じクラスの楓!そんでこっちが幼なじみで俺の兄みたいな存在のはるにぃ!」そうお互いを紹介した すると 「初めまして、尚也の隣人の神崎 陽斗と言います」 と丁寧に自己紹介をしてくれた それに俺も慌てて「初めまして、九條楓です。」と挨拶をすれば優しく笑い返してくれた それをニコニコと見ていた尚也が「そういえばね!」と再び嬉しそうなあの笑顔で陽斗さんに話しかけた 近くでその顔を見た時に俺は気付いてしまった "あぁ、尚也はこの人が好きなんだ、、" と 学校で俺が見ていたものとは比べ物にならない程の笑顔で、周りに花でも咲いているかのような柔らかくて幸せそうな雰囲気 そして何より、陽斗さんを見るあの瞳 尚也の全てか陽斗さんを好きだといっていた 自分にだけだと思っていたそれらが全部違う事に気付いた時、俺は絶望した 自分の気持ちを自覚した "あぁ、俺は尚也の事が好きだったんだ、、、" "もう少し一緒にいたかったな" 帰る前にそう思っていたはずなのに今はすぐにでもその場から離れたくて、、、 あの瞳で自分以外を見る尚也を見たくなくて、、、 「なおや!俺、帰るな!」 「あっ、分かった!気を付けてね、また月曜ね!」 そう言ってみせる笑顔 陽斗さんにみせるのとは違う笑顔 "あぁ嫌だ" そう思った俺は短く返事をして足早にその場から立ち去った あの日家に帰ってからの記憶はなくて 休みの2日間、何を思ってどう過ごしたのかすら曖昧で 月曜、憂鬱な気持ちのまま教室へ向かえば楓が既に来ていて、、、 俺の姿に気付いた尚也は笑顔で「かえで!おはよう!」と挨拶してきた そんな尚也の姿を見た数名の女子がひそひそと話す声が聞こえた 「ねぇ、見た?」 「見た見た!尚也君のあの笑顔ヤバくない?」 「尚也君があんな風に笑うのって楓君にだけだよね」 「いいな~」 そんなやり取りに少し前の俺なら喜んでいただろう でもあの日、尚也の気持ちに気付いてしまった俺にはただ苦しくて 尚也の特別だと思っていたのは、学校という小さい世界の中だけで そこから1歩でも出てしまえばそんな事なくて 尚也の特別は陽斗さんただ一人なんだ

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