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 俺は学校が終わって家に帰り、着替えて、ここで十八時頃からスタンバってた。  本当にバイトなのかも。読モ関係の人と会うだけかも。  そうであってほしいという気持ちで、楓にバレないようにその姿を見守る。  そう。これは心配だから見守ってるだけで、決してストーカー的なアレではない、と、自分に言い聞かせる。  遠目だからよく分からないけど、楓は緊張してるように見えた。  自分の腕をずっと握ってる。すがり付くみたいに。  そして、ちょうど十九時になった頃。  楓が顔を上げた。  その先に、一人の男がいる。  スーツ姿で、いかにも仕事帰りっぽい雰囲気。若そう。そんでなんか、チャラそう。  そいつが楓に近づいて、なにか話してる。スーツ男は楓の腰あたりに手をおいて、楓を誘導するように歩き出した。  今すぐにでも二人に駆け寄って、楓に触れる男をぶん殴ってしまいたい。  唇を噛んで堪え、二人と少し距離を取り後を追う。  本当にモデルのバイト関係の話だって分かったら、このままこっそり帰ればいいし。  マジでこっそり帰らせてくれ。  そんな俺の願いもむなしく、二人は繁華街を進み、紫とかピンクの看板がひしめく界隈に入って行った。  ――ラブホ街とか、絶対仕事じゃねぇな。  握った拳は汗ばんでいて、身体はマグマが流れてるみたいに熱いのに、頭の奥はどんどん冷たくなっていく。  渦巻く感情は、怒りなのか、不安なのか、恐怖なのか。  きっとその全部が、俺の中でごちゃ混ぜになる。  下品な城みたいなラブホの前で、二人が立ち止まった。  スーツ男が楓の腕を引く。ホテルに入ろうとする男に、楓は嫌がるように首を横に振って、掴まれた腕を振りほどこうと抵抗している。  どこか冷静にその様子を観察しながら、俺は二人の間に割って入った。 「高校生と、何しようとしてんの?」  楓を背中に隠すようにして、男を見据える。  苛立ちを浮かべていた男の顔が、驚きと焦りの色に塗り変わる。 「は?……てか、え……二十歳(はたち)だって聞いてーー」 「こいつ、十七だよ。未成年」  ごねたら殴る。むしろ殴らせろ。  この、どうしようもない気持ちの捌け口にさせろ。  そんな思いが顔に出ていたのか、男は怯えたように目を泳がせ「未成年なんて知らなかったんだよ」と言って、足早に逃げて行った。 「……斗真……」  振り返ると、楓が呆然と立ちすくんでいる。  無言で楓の腕を取り、そのまま下品な城へ入った。  何も喋らず無人のエントランスを抜け、適当に部屋を選ぶ。  楓も、ただ黙って俺に腕を引かれていた。  入った部屋は半分以上がベッドに占拠されていて、ソファもない。  枕元にはゴムとローション。  本当に、ヤるためだけの部屋。  こんなところに、楓はあのスーツと来ようとしてた。  血管がぶちギレそうになる。  深呼吸してベッドに座り、楓にも「座って」と低く声をかける。  楓が俯きながら、俺と少し離れた場所に腰掛けた。 「……もっと、こっち」  腕を引いて、隣に座らせる。  バケハとマスクを取ると、楓の顔がちゃんと見えた。  迷子みたいな心細そうな表情に、こっちが泣きそうになる。 「……斗真……どうして……」  消え入りそうな声で、楓が呟いた。 「……どうして、ここにいるか?」  頷く楓に、静かに息を吐く。 「昨日、楓のスマホ画面に、メッセージが出てたんだよ。時間と場所、会えるの楽しみって内容」 「……マジか……」  楓が笑い損ねたような吐息を漏らす。

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