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「……個人アカ は、本当に好きなものしかし載せないんだよ」
楓がもたれていた身体をソファから起こして、俺を見る。
大きな目に見つめられて、どきりとする。
楓の手が伸びてきて、俺の頬に触れた。
「なに……?」
「傷、消えたな」
その言葉に、今度は違う意味でドキリとする。楓には、ジェルネイルで付けられたあの傷について、今までスルーされてたのに。
「あー……うん、ううん?」
傷なんてあったっけ?とか小声でぼそぼそ言う俺の頬から、楓が手を離す。
「……この前、武ちゃんが言ってたやつ」
そして、俺から目も離して呟いた。
「武瑠?」
「斗真が、好きな人のことすげぇ好き、って」
「……あ、あー、あれ。あんなん、武瑠の冗談だって。俺、好きな奴とか……いねぇし」
いるけど。お前だけど。かれこれ十年以上好きだけど。
そんなの言えるわけないから、誤魔化して笑う。
「楓だって、知ってんだろ。俺、彼女とか全然いないじゃん」
「……お前、セフレばっかだもんな」
「う、ええ、っと……まぁ、それは、……その、それはそれで……」
「……じゃあ、好きな人、いないんだ?」
「……いないよ」
……うう。楓に嘘つくの、すげぇ苦痛。顔見れない。
だけど、本当のことなんて言ったら終わるし。
楓からの反応がなくて顔をあげると、目が合った。
その一瞬、確かに楓の綺麗な顔には、悲しみの表情が浮かんでいた。
けれどそれはすぐに、小さな笑みに変わる。
「そっか」
そう呟く楓の声も、いつも通りみたいに聞こえる。
「……楓?どうし――」
――ピンポーン、ピンポーン。
部屋に鳴り響くインターフォンの呼び出し音が、俺の言葉を遮った。
「あ、ウーバーかも」
楓が立ち上がる。
室内モニターで配達員に応え、「斗真、ピザ来たよ」と嬉しそうに笑って玄関へ行ってしまった。
一人になったリビングで、はー、と長く息を吐き出す。
楓が、俺のそういう、女関係のこと話すのは珍しい。
なんとなく、楓には女の子と会う日は内緒にしたり、俺からも話題を振ったことなんてなかった。
――武瑠が余計なこと言うからだ。とりあえず明日の昼飯ん時に、なんらかの謝罪を求めてやる。
がしがしと頭をかいて、武瑠になにを奢らせるか考えていると、ポコン、ポコンと連続で楓のスマホが鳴った。
ソファの隙間に挟まっていたそれをローテーブルに置いてやる。
画面はまだスリープ状態になっていなくて、ポップアップ通知が見えた。
『シュン:明日は××駅東口に十九時でいいかな?会えるのすごく楽しみにーー』
――は?
数秒後、画面は暗くなったけど、それでもスマホを凝視してしまう。
……シュン?誰?
そんな名前の奴、楓の周りにいねぇし、なんで××駅?微妙に遠くね?……会えるの楽しみ?は?会う?どこのどいつが――
「斗真ー!ピザ取りきてーめっちゃ熱いー」
楓の言葉に、やっとスマホから目を離す。
「……今、行く」
――明日。十九時。
楽しみにしていた期間限定の紅ズワイ蟹ピザの味は、何もわからなかった。
学校とか、いつも遊ぶエリアからは離れた駅。
まるで知り合いに会いたくないから、選んだような場所。
十八時五十分。
例のメッセージに書かれたその駅に、楓は居た。
私服で、バケットハットにマスク姿。
まるで、知り合いにバレたくないみたいな格好。
今日の夜暇?と聞いた俺に、楓は「ごめん、バイト」と答えた。目をそらして。
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