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「別に……ただ、TVでケーキがうまいっていうカフェ紹介してて、その店の名前スマホにメモしてたら」 「何やってる時?」 「……ヤってる時」 「アウト」  ……まぁね。  確かに、真っ最中にTV見ながらスマホいじるのはマナー違反だ。そりゃビンタくらいされる。俺が悪い。けど、楓が好きそうなケーキだったからさぁ。 「本当、イケメンの無駄遣いだよおめーは」 「俺のイケメンを俺がどう使おうと関係ないと思いますけど」 「うざ。そのカフェ、女の子と行ってやれよ。一緒に行きたくて店の名前メモった、とか言って」  さすが軍団で一、二を争うモテ男のアドバイス。  武瑠も、結構去るもの追わずタイプだけど、別れる時揉めたとか聞いたことないし、なんなら別れた後、元カノと友だちになるような奴だ。 「あー……それもう遅い。その子に、このカフェ一緒に行こうって言われて、楓と行くって言っちゃった」 「アウトすぎだろ信者」  ゲラゲラ笑いだす武瑠に蹴りを入れていると、部室の扉が開いた。 「斗真、お待たせ」  顔を覗かせたのは、新しいバレンシアガのカーディガンを着た楓だ。最高に似合ってる。 「おー。掃除当番終わった?」 「うん。……てかなんで武ちゃん爆笑してんの?」 「いやー、マジで斗真が信者過ぎるというか、好きな人のことが好き過ぎるというかぁ」 「っおい、武瑠!」  余計なことを言い出す武瑠の口を慌てて塞ぐ。  武瑠に、恋愛感情として楓のことが好きだと言ったことはないけれど、こいつは多分、気づいていると思う。俺が不毛な片思いをしていることに。 「……斗真の、好きな人?」 「楓、気にすんな。こいつが適当言ってるだけだから」  武瑠を睨んで、ぺたんこの通学バッグを手に取る。 「帰ろ、楓」 「ああ、……うん。武ちゃん、またね」 「バイバイ楓先輩。斗真は崇拝もほどほどに」 「うるっせぇ」  楓に見えないように舌を出す武瑠に、俺も楓に見えないように中指を立てた。    「アウター買った、よ、と……」  楓が呟きながら、この前買ったダウンの画像をSNSに投稿する。 「読モ用のアカウント?」 「そう。週に一回か二回のポストノルマが、地味にめんどい」  一仕事終えたみたいに、楓は息を吐いてソファに背を預けた。  友達と撮る動画とかには結構参加してるけど、週二のポストがめんどいと思うくらいには、楓自身はSNSにそこまで積極的じゃない。 「楓の個人アカの方、全然更新されないじゃん」 「俺あんまSNS系得意じゃねぇもん。斗真だって完璧見る専だろ」 「俺もあんまSNS系得意じゃねぇもん」 「似てないーだめー」  楓の声真似して答えたら、隣に座る男は楽しそうに笑う。だめー、だって。かわい。  今日は学校からそのまま楓の家に遊びに来て、今はウーバーで頼んだ夕飯のピザ待ちだ。  菜穂さん――楓のお母さんは友達と食事の約束があるとかで、俺たちと入れ違いで出かけていった。 「楓の最終ポスト、一ヶ月以上前じゃん」  楓のプライベートアカウントを開くと、最後の投稿はハロウィンのカボチャだ。  仲良い先輩の一人がバカみたいにでかいカボチャを学校に持ってきたから、みんなでジャック・オー・ランタンを作って部室に飾った。  楓のポスト一覧は、景色や動物がほとんど。  青空とか夕焼けとか、紅葉、海、どっかの犬、野良猫。  楓本人の画像もない。唯一の人物といえば、一緒に行った海の画像の端っこに、ブレブレで映り込んでる俺の腕くらい。こんなん、人物って言えないか。

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