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「お前……ほんと何考えてんだよ……あんな奴と……マジで勘弁して……」  派手な爆発の後、全身から力が抜ける。  両手首を掴んでいた手を離して、楓の上に倒れこんだ。 「斗真……ごめん。……怒んないで」  楓が俺の髪を撫でる。  ……怒んないで、じゃねーよ。  それでも、さっきは苦く感じた楓のブルガリがちゃんと甘くて、深く呼吸が出来る。  楓の匂いに包まれると、身体中を駆け巡っていた怒りがゆっくり薄れていく。   「……楓、お願いだから、他の男とヤんないで。お前が俺以外の男とエッチするとか……考えただけで死にそうになる」 「……斗真だったら、いいの?」 「……いいよ」 「なんで……お前、そんな……心配だからって、俺とできんの?」  ――もういいか。そんな気持ちになって、身体を起こした。 「心配は心配だけど。……できるよ、余裕で。俺、楓のことめちゃくちゃ好きだから。性的な意味で」 「……せ、せい、てき?」  寝転がったまま、心底驚いた顔をしている楓にちょっと笑う。  背筋を伸ばして、息を吸って、気持ちを告げた。 「初めて会った時から、ずっと楓が好きだよ。幼馴染みとか友達の好きじゃなくて、エッチしたいって思う、好き」  ――あーあ。言っちゃった。  十年以上、秘密にしてたのに。そんでこれからも、ずっと楓の側に居たいから、言うつもりなんかなかったのに。 「だから、楓が……本当に確かめたいなら、その相手は俺にしてほしい。ずっとつるんでた幼馴染みとか、お前は嫌かもしんないけど」  斗真だけは嫌だと、楓は言っていた。  家族同然みたいな奴とヤるとか、考えられないってことなんだろうけど。  だけど俺だって、ここはマジで、絶対、何があろうと譲れない。 「……斗真が俺のこと、好きならいいよ」 「…………あ?」  最終手段として、楓が他の男とヤるなら死ぬ!くらい言う覚悟でいたから、さらりと聞こえた楓の言葉は、まるで知らない外国語みたいに理解出来ない。  遠くなった香りがまた近づく。楓が身体を起こして、俺と向き合った。 「前に武ちゃんが言ってた、斗真の好きな人って……俺なの?」 「……好きな人?……ああ、……いや、うん……実は、そうなんだけど……でも俺あの時、いないって言わなかった?」 「あんなん、すぐ嘘だってわかる。……俺はお前に隠し事できないけど、お前だって、俺に隠し事出来ないよ。その……俺を好きだったことは、全然、わかんなかったけど……」  ふー、と楓が長く息を吐いて、俺に手を差し出す。 「……なんか、緊張してきた。斗真、手、握ってて」  頭ん中はまだ全然いろんな処理が追いついてないけど、条件反射みたいにその手を握る。  指先が冷たくて、温めるように親指でさすった。 「俺が、男が好きなのかもって本気で考えたきっかけ、お前なんだよ」 「……俺?」 「うん。今までは自分のこと、性欲薄いんだなーくらいに考えてたんだけど。斗真に好きな人がいて、しかもそいつのことすげぇ好きらしい、って聞いた時……俺けっこう衝撃受けて」  楓が静かに笑う。 「セフレしか作んなかったヤリチンに、ついに好きな人が?って」 「おい。ヤリチンて」 「事実じゃん」  言われて、自信を持って違うと言い返せないくらいには自覚があるから、黙るしかない。 「でも……だんだん、なんか……お前に好きって思われてる人が、羨ましいとか……思うようになって」 「……好きって思われてるの楓だよ」 「……だって、そんなの……お前は女の子が好きだと思うだろ、普通」 

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