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 身体を起こして、楓を見下ろす。俺の布団のシーツに散らばる髪に触れる。 「あと、楓のこと、ずっと考えてるよ。一日中」 「……それもどうなの」  笑う楓がすごく嬉しそうで、下半身と心臓が痛い。  凄まじい性的興奮と、煩悩を取り去ったような純粋な恋心は、共存できるということを初めて知った。 「斗真」  楓が腕を伸ばして、俺を引き寄せる。加減して圧し掛かると、触れ合う素肌がじわじわ熱を持つ。 「……あのチャラいスーツの人さ」 「……今その話いる?」  俺の布団の中で、他の男の、しかも今一番地獄に落としたい人間の話を持ち出した楓を睨む。 「アプリのプロフィールに、リミテが好きって書いてあったから」  楓が少し笑い、俺の唇を軽く噛む。 「そんだけの理由で選んだ。ごめん」  力を込めて抱きしめられる。楓の温かさと匂いが身体中に染み込んでいく。 「好きだよ。斗真だけ」  鼻先が触れ合う距離での告白に、俺の目元も熱を持った。 「……俺も」  湿度を含む掠れた声で答えて、十年分の気持ちを込めてキスをした。     「あ、先輩達なんかやってる」  ぼんやりした頭に、武瑠の声が入ってくる。  ベランダの柵に腕を乗せ中庭に目をやると、そこにはお馴染みの集団とギャラリーがいた。  楓は段差のところに座っていて、欠伸をしてる。  『眠そう』  スマホでメッセージを送る。  楓がスマホを取り出し、それから真っ直ぐ俺の教室のベランダを見た。  優しく笑う楓は、なんだかすごく幸せそうに見える。きっと俺も、同じような顔で笑い返してる。  『眠いよ。寝かしてくんない奴いたから。降りてこないの?』  『今お前の隣に行ったら、普通にそこで昨日の続き始める自信ある』  楓がスマホから顔を上げ、口パクで俺に向かって「バカ」と言うのがわかる。  腕に顔を乗せ、でれっでれに緩む頰を隠す。  ――ああ……ヤバい。  あそこにいるの、俺の彼氏なんだけど。あの綺麗なの、俺のものなんだけど。昨日、あの綺麗なのとヤったんだけど。 「……ぐ、う……あああぁ……」  自分の中だけじゃ処理しきれない感情が、呻き声となって溢れる。  ただ動いて出して終わり。  こんなもんだったはずのそれは、こんなもんなんて二度と言えなくなった。  バカみたいにがっついて、「好き」と言われただけで涙が出るような。  コントロールできない衝動は、もて余すほどに強烈で、死ぬほどの幸せがあった。  「斗真がスマホ見てニヤニヤしてると思ったら、急に悶えだした」 「女だろ」 「でもコイツこの前、エッチだるいとか言ってました」 「青春真っ只中のDKにあるまじき発言」 「あれだよ、斗真はさ、ガチの本命のみに爆発するタイプなんだよ」 「爆発。ヤバ」 「不眠不休の大爆発よ」 「えぐ」  好き勝手に盛り上がる武瑠達に、ちょっと感心する。  ――俺のこと、良く分かってんじゃん。  俺の身体も心も、不眠不休で反応するのは楓だけだ。  かっこよくて可愛くて、愛してやまない、あいつだけが。   世界でただ1人、僕の性春。 END  

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