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「…………なぜ?」
なぜそんな、ひどい仕打ちを……?同じ男として、おあずけの辛さは分かってもらえると思うんだけど……?
「好きな人との初めてが、ラブホとか嫌だ」
「……え?」
「……お前とはちゃんと、家で……ちゃんとしたい」
楓が半泣きで俺を見上げる。
――なんだこいつ……。
なんでこんな可愛いの。綺麗でかっこいいのに、こんなに可愛いってどういう仕組みなの。
そんな、反則にも程があるような可愛いことを、反則にも程がある可愛い顔で言われたら、続行するなんて出来ない。
なんとか理性をかき集め、精神を集中させる。
「……わかった。OK。帰ろう。でも待って。……コレ、おさめるから」
ジョガーパンツの上からでも分かるほどしっかり主張してるソレを、とりあえず通常の状態に戻さないと電車さえ乗れない。
「楓も泣き止んで。泣き顔興奮しちゃうから。いつまでたってもおさまんねぇから」
「……泣き顔……興奮すんの?」
「するよ」
「……お前、やばいね」
楓が楽しそうに笑って、その拍子に涙が一粒溢れ落ちる。そんな一瞬でも、見惚れるくらいに綺麗。
「……楓、笑うな。お前の全部が俺の下半身に直結する。静かにしてて」
目を閉じて、楓を遮断するよう努める。
「……今なに考えてんの?」
「……喋んなって。……今は、中学の校歌を脳内再生してる」
「……なんで?」
「……部活の夏合宿でクソ暑い中、謎に歌わされ続けてトラウマだから。はい、お前は黙ってて」
静かな部屋の中、脳内では校歌が流れている。
――海風吹き抜ける我が学舎 、夢追い共に挑む道、未来への架け橋(繰り返し)――
「……ふ、ふふっ、あっは!」
「おい!」
臨戦態勢をオフにしようと頑張る俺の隣で、楓が盛大に吹き出した。
「だっ、て、無理だろ、なにこれ。ラ、ラブホで、めっちゃ勃たせて、中学の校歌脳内再してる奴なに、やば、ふ、っ、あははは!」
ばか笑いする楓につられて、最初は我慢していた俺も、結局一緒に笑ってしまった。
二人で散々笑った後、俺の俺はようやく外出可能なほどに落ち着いてくれた。
「……斗真」
部屋を出る直前、呼ばれて振り返ると楓が俺にキスをした。
そして「また後でね」と、やっと通常モードに戻った下半身に向けて悪戯に笑うから、俺は声に出して校歌を歌い、楓はまた大笑いした。
親のいない俺の家に帰ってきて、――途中、ドラッグストアで必要なものをしっかり購入して――飯も食わないですぐ風呂に入り(一応、別々に)、お互い髪も乾ききらないまま、もつれるように布団に倒れた。
「キスしていい?」と尋ね、答えを聞く前に唇を塞いでしまう。
最初から、真っ最中みたいな激しくて深いキスになる。ラブホでの興奮以上の興奮が、俺の頭と身体を容赦なく襲う。
唇を塞ぎながら、楓の部屋着を脱がせる。首元に三つほど付いているボタンが、最高に疎 ましい。
「斗真……ふ、童貞みたい、っ、んぅ」
荒々しく自分のスウェットも脱ぎ捨てる俺を見て、楓が笑う。その首筋を緩く噛んでやる。
俺と同じボディーソープの匂いをさせる楓に、今日はマジで我慢できないし、我慢しなくていいことが死ぬほど嬉しい。
「……お前、毎回こんな、がっついてんの?女の子引かない?」
楓が俺の襟足で遊ぶように、手を潜らせる。
「……こんなん、いつもならないし。いつもは、なんか、ケーキのこととか考えてた」
「ふはっ、なんでケーキだよ。それもどうなの」
楓が笑い、呆れたみたいに眉を下げる。
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