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ぎり青春席の隣は

 まだ引き出しにそこまで教科書なんかは入ってない。けれどこの長方形の木板に脚が生えた、体育座りしてるロボみたいな形状の物を持ち上げようとする瞬間は、無意識にも息を殺した気合いを呑み込む、「よっ」とか「ほっ、」とかいう吐息が漏れてしまう。  そんな調子の「よっ」や「ほっ」があちこちで放出され、それらががこんがこん、ギギギ……というけたたましく物騒な、金属や床のタイルたちがぶつかり合う音響のなかへと霧散していく。  高校最後の席が、期待と魅惑に満ちたスタートを切った、なんていう夢は本当に一週間の泡沫だったらしい。俺は特にそうじゃないけど。  始業式当日の席順は、ひとまずクラス分け後の便宜上、べたに出席番号順に並べただけのものだった。  文理コースであるこのクラスの各々の進路を踏まえ、大まかに振り分けた席順へと今朝、いちにもなく移動となり朝から民族大移動のこの様相である。  元々『や』がつく苗字で窓際前方に座っていた俺は、三席分後退するだけの簡易な『引越し』だったが、行き交うひとと机一式の移動で発生する譲り合いや調整、近隣女子の「重お〜い」とかいう誰向けでもない遠回しな要請なんかに付き合っているうちに、 新しい席でつけるひと心地が、いつの間にか最後の方になってしまった。  窓に面したこの列だけでも、幸運(ラッキー)だと踏んでいたが、人気のぎり『青春席』である窓際後ろから二番目の席に移ることは、ちょっとした胸の期待値上昇もあった。  ひとの往来も落ち着いて新・『居住地』を振り返る。  新しい席での相方となるそいつは、おそらく『あ』で始まる苗字の宿命による、廊下側から対角線上の移動のため、ある程度時間と重労働を要したに違いないのに、 見た目からの真面目で要領が良いのかも知れない、という雰囲気を裏切らず、 既に今し方前から新座席へ定着したと思われる落ち着きを漂わせ、頬杖をついて窓外に拡がる、まだ花を付けている樹もあるおそらく桜だろうな、一席開けて控えめな距離をとりながら、グラウンドを眺めていた。  喧騒をぶり返さないように机を抱え、彼の桜見物を邪魔しないよう、でもきっと視界に俺が過ぎったのだろう、 ぽかっと目線が俺に上向いたので、後から連れてきた椅子をそっと彼の隣に並べ、やっぱり滲んでしまう照れは隠しようないけど、もうそのままに第一声を掛けた。 「……よろしく、」

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