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襲撃7

「デカイ声を出すのは結構だがそんな格好で人に見つかってもいいのか?」 「なっ……」  半裸で精液の飛び散った身体は事情を知らない者が見ればただの変態だ。大きな声を出していたつもりはなかったが、叶真はぐっと言葉を飲み込んだ。 「さっさと服を着てこの場から立ち去ることだ。じゃあな、トーマ」  憎らしいキョウスケが叶真の名前を呼ぶ。どうして自分の名前を、と思ったが、この男がここに足を運べた理由を考えれば簡単だった。ナオトと知り合った掲示板でのやりとりを、この男は見ていたのだ。  叶真に背中を向けながらひらひらと手を振ったキョウスケは、今度こそ一度も振り返らずに闇夜に溶けていく。悔しいがまともに動けない叶真はそれを見送るしかなかった。 「マジ……最悪」  キョウスケに犯されたこと。イかされたこと。挙句の果てに電話番号と名前まで知られてしまった。これ以上最悪な日を叶真は一度も体験したことがない。  叶真は自分のスマホに目を落とす。ここにはあの男の番号が登録されている。そう思うだけで腸が煮えくり返りそうだ。すぐにアドレスを開き、キョウスケの痕跡を削除してやろうと考えた。だが叶真の指はそこで止まる。  憎らしい男だ。どうにかして痛めつけてやりたい。そのためにキョウスケとの繋がりを消してしまうのは得策ではなかった。狭いゲイの世界だとて偶然同じ人間と出会う確立は相当低いだろう。なんとかぎゃふんと言わせたいと思うからこそ電話番号は叶真にとって大事な武器だった。 「くそったれめ」  叶真は忌々しくスマホをシャットアウトさせる。身体はまだ重く鈍い痛みが走ったが、これは少し休んだくらいではどうにもならないだろう。  キョウスケに剥ぎ取られ投げ捨てられていた下着やズボンをかき集めると、汚れた身体のままそれに足を通す。なにか拭くものを持っていれば身を清められたがなにも持っていなかった。男を抱くときの叶真は常にゴムを着用していたので身を汚すことがなかったのだ。 「すぐ裏に便所があるのは幸いだったな」  せめて飛び散った精液だけは洗い流したい。よろよろと言葉通りに重い腰を上げた叶真はすぐ近くにある公衆便所へと向かう。  夜の冷たい空気や、ほんの少しだけ光を見せる星空はいつもと変わらず爽やかだ。だが叶真にはその景色が数時間前とはまるで別物と思えた。

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