叶真の体調が回復しつつあることに安堵したのか、今のキョウスケはどこか気まずそうだ。今までも散々叶真を酷い目に合わせてきた男であったが、今回は本人にも自覚があるらしい。 　キョウスケから理由を聞いたところで今までのように噛み合わない、不毛な会話になる可能性はある。だが叶真は気まずい空気のなか黙っていることは出来ない。そしてそれ以上にどうして自分がこんな目に合わなければいけなかったのか、それが知りたかった。 「……あんた、俺になんか言うことはないわけ？」 　普段どおりに叶真は話しかけたつもりだったが、しゃがれ声のせいでそれは冷たく感じられた。 　キョウスケは叶真と目を合わせようとせず、俯きがちにすまないと謝る。 「さすがにやり過ぎたと……反省はしている」 　キョウスケの声音からそこに嘘はないことが分かる。今回の叶真の惨状はかなり堪えたらしい。 　簡単に許してしまうのは癪だった。だが過ぎてしまったことはどうにも出来ない。叶真にとって大事なのは犯されたという行為ではなく、キョウスケがなにを考えて自分の前に現れたかということだ。 「わざわざ掲示板までチェックしてさ、あんたの行動がまったくわかんねぇんだけど。一体なんなわけ？」 「それは……」 　キョウスケの言葉が初めて詰まった。なにか後ろ暗いことがあるのか落ち着かない様子だ。 「俺はあんたのことをさっさと忘れたい。全部なかったことにしてタチに戻りたいんだよ」 「ネコとして男を漁っておきながら？」 「……そうだよ。てめぇのせいでこんな身体になったんだろうが」 「そうだ。俺がお前の身体を変えてやった。だったらなぜ他の男を漁る必要があるんだ」 「はぁ？　なに言ってんだ？」 「他の男に抱かれるくらいなら俺に頼めばいいだろう？　あんな冴えない男を引っ掛けるよりいいと思うんだが？」 「えっ……、いや、ちょっと待てよ」 　やはり話が噛み合わないと、混乱気味の頭を整理する。 　キョウスケが今回の行動を起こした原因、それは叶真の掲示板を見たことに間違いないだろう。やたらと男を漁るという言葉をキョウスケは気にしているように感じた。つまりは叶真が他の男に抱かれようとしていたことにキョウスケは腹を立てたのではないか。そうとしか考えられない。理由は分からなかったが。 「つまり、他の男に嫉妬したってことか？」 　口にして叶真は後悔する。キョウスケが嫉妬したなど考えただけでも鳥肌が立ちそうだ。 　キョウスケもすぐに否定し、怒号が飛ぶかと叶真は身構えたがそれはいつまでたっても起きなかった。それどころかキョウスケは腕を組みながら堂々としている。