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初めまして

「ちょっと俺らヤりすぎじゃねぇ……?」  二人の精も底をつき、我に返ったとき空は白さを帯び始めていた。  何度達したのかは分からない。途中までは数えていたがそれも忘れてしまった。ただ分かるのは叶真は達してもまともに精を出せなくなり、キョウスケは面倒になったのかゴムを使うことなく何度も叶真の中に熱い精を打ち付けたということだ。 「俺、女だったら今日のセックスで絶対孕んでるわ……」  どこかげっそりしている叶真と違い、キョウスケはいつもと変わらずケロリとしている。その化け物じみた体力に、叶真は感服せざるを得ない。 「おい、お前立てるか?」  シャワーを浴びたばかりのキョウスケが雫を滴らせながらそう言った。 「俺は今日仕事があるんでな。立てないなら置いていくが」 「……置いてったら俺が金品盗むとか考えねぇの?」 「立てないならしようもないだろう」  確かにそうかと思いながらも、どこかそんなことはしないだろうという信頼のようなものを感じる。 「……立てないことはねぇよ。あんたが家を出るとき俺も帰る」 「ならシャワーを浴びたらどうだ」 「いや、それは帰ってからでいい。下の始末はしたし……出て行くまでは何もしたくない気分……。ってかあんたも寝てないだろ。仕事なんて出来るのかよ」  セックスは相当体力を要する。激しいセックスは更に体力を消耗するだろう。 「一晩くらいなら問題ない。休めるときに休むしな」 「マジかよ……さすが絶倫……」 「お前も体力をつけたらどうだ」 「いや、あるほうだとは思うけど……。あんたが異常なんだよ……」  叶真も一晩で何度もイかせてきたが、キョウスケには到底敵わない。いや、敵うものなど滅多にいないだろう。だが本人は自分が基準だからか首を傾げている。 「ってかあんたって仕事してるんだな」 「当たり前だろう。どうやって生活していると思ってるんだ」 「想像できないんだよ。裏社会で生きているとか言われても納得する雰囲気だし。結局あんたは何してる人?」 「美容師だ」 「はぁ? あんたが美容師ぃ?」  思いも寄らない職種に叶真は素っ頓狂な声を上げる。 「失礼な奴だな。どこからどう見ても美容師だろう」  裏社会の人間に見えていた叶真には、どこからどう見ても美容師には見えない。信じられないと疑いの眼差しを送る叶真に、キョウスケは名刺を投げつけた。  そこには洒落た店の名前と共にキョウスケのフルネームが記されている。 「成川(なりかわ)恭介(きょうすけ)……」 「ちゃんと美容師だろうが」 「ああ……うん。なんかびっくりした」  美容師だったこともそうだが、あっさりと本名を明かしたことに叶真は驚きを隠せない。 「お前は? 今日は平日だが仕事はないのか?」 「あー、夕方からバイトはある。ガッコは行かなくても支障ないし」 「学校? ……まて。お前一体何歳だ」 「ハタチだけど。……ってかどう見てもあんたより年下で大学生だろうが」 「大学生だと? ……年下だとは思っていたがまさか学生だとは。どおりでガキくさいはずだ」  やれやれと息を漏らした恭介に叶真は苛立ちを隠せない。 「ガキくさいってなんだよ。そういうてめぇは何歳だ、コラ」 「二十八だ」 「人のことガキ扱いしておいて、自分はおっさん一歩手前じゃねぇか!」  今度は露骨に恭介がむっとした。だがしばらく睨みあったものの、恭介はなにも言い返してこなかった。  二十八の美容師。成川恭介。何度か身体を重ねたはずなのに何も知らなかった。知っていたのは恭介の体温と激しいセックスのみだ。 そしてそれは恭介も同じだろう。叶真のことをなにも知らない。

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