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ここからが本当の闘い

 叶真はベッドの側に衣服と共に転がっている自分の財布へ手を伸ばす。その中から一枚カードを取り出すと、恭介に向けて投げた。 「これは?」 「俺の学生証。俺だけがあんたの名前を知ったんじゃフェアじゃないだろ。名刺なんてないからな。それで勘弁してくれ」  名前と写真、大学名の入った学生証。それは間違いなく叶真を何者か証明するものだった。  恭介は江藤叶真と小さく呟いた後、学生証を叶真へと返した。その表情は今までに見たどの顔よりも晴れやかに見える。  その表情に叶真は不覚にもドキリとした。セックスを感じさせない穏やかな恭介を見たのはこれが初めてだ。  だがそんなことを恭介に知られまいと叶真はぐっと拳を握り締め、いつものように挑発的な言葉を投げかける。 「言っておくが俺はてめぇが大嫌いだからな。てめぇに落ちたりしてないし、今後もありえねぇから」  言っていてこんなところがガキくさいと言われるのかと自分でも思ったが、それでも言わずにいられない。落ちないと自分に言い聞かせなければ不安だった。 「まぁ身体の相性は悪くねぇから……俺がタチに戻るまでセフレでいてやる。言っておくがタチに戻るまでだからな!」  そう高らかに宣言した叶真に恭介は笑う。それは恭介特有の不敵な笑みだった。 「タチに戻るまで、な。それまでに完璧に俺に落としてやるから安心しろ」 「……上等じゃねぇか」  口で悪態を付きながらも二人はこの時を確かに楽しんでいた。  友人でも恋人でもなく、知り合いと言い切るには知りすぎた関係。この不思議な関係になんて言葉をつければいいのか叶真には分からなかった。  出勤時間が近づいてきたのか、恭介は身なりを整える。その姿を見て叶真も衣服を身につけた。  重く、よろめきそうになる身体だったが帰宅する分には問題がなさそうだ。  二人で連れ立って家を出ようとしたとき、恭介の指が叶真の髪を掬った。 「おい。今度から髪を弄るときは俺のところにこい」 「へ? なんでだよ」 「この髪色は似合わない。俺が一番似合う色に染めてやる」 「なんだそれ。髪から俺色に染めてやるってか?」  挑発するつもりでそう言ったが恭介の反応は叶真が想像していたものと違った。 「ああ、そう思っても構わない。言っただろう、全力で落としてやると」  あまりにもきっぱりと、男らしく言い切られ、叶真は自分の頬が赤くなるのを感じた。  馬鹿じゃないのかと悪態をつきながら恭介から視線を逸らすが、朝日の下ではきっと隠せてはいない。  一勝一敗の男の勝負。確実に軍配は自分にあると踏んでいた叶真だったがそれも怪しいかもしれない。  敵は強大で一枚上手なのだから。

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