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俺は今でも

「——姉ちゃんがいなくなって、もうすぐ二年じゃん。…………まだ駄目なの?」 「ちょっと待て、何の話をしてるんだよ……」 「瀬生さんだってまだ若いんだからさあ。このままいつまでも一人、て訳にもいかないでしょ。 寂しいよ。姉ちゃんだって、きっと許してくれるよ。…………何だったら、次の人までの繋ぎでもいいよ、俺は」 「いや待て。何を言ってるんだ」 「俺だったら、気心知れてるからまだいいでしょ。一応姉ちゃんとも血繋がってるんだし、」 「ふざけるな、そういう話をするなら、もう帰、」 「いいや帰らないね!」  強い口調で牽制したつもりが、さらにその上が跳ね返って来て、椋田は混乱して柚弥を見返した。 「…………言わせて貰うよ、この際。 こんな二人きりになるチャンス、滅多にないんだから」 「……」 「ずっと待ってたんだ。二人だけになれるの…………」  声を荒げたわりに、どんどん瞳と口調が澱むように暗く沈んでいく柚弥に、椋田のなかの不穏がみるみる増長していく。 「単刀直入に言うけど……、」 「…………」 「俺のこと、もう抱いてくれないの?」  椋田は、信じられないものを見るような瞳で、柚弥に(みひら)いた。 「瀬生さんの中じゃ、もうなかったことになってる訳? ……あの時のこと、俺、一度も忘れたことないんだけど」 「…………柚弥」  怒りを感じると、確かに頬が紅潮していく。  だが身内に湧き上がり破裂しそうなものは、何故か驚くほど冷え冷えとしていた。 「いい加減にしろよ。 もう、やめろ」 「嫌だね黙らないよ。——何で? あの夜のこと、なかったことになんか出来ないよ。 たまに思い出すと、何だかもう、切なくなってくる……。 瀬生さんは、どうなの。俺、はっきり言って、 このまま死んでもいいくらいに、めちゃめちゃ思ってたんだけど……!」 「…………っ……」 「俺は今でも、瀬生さんのこと…………っ、」 「——何やってるんだよ」  自身の冷えた怒りなど、些末なものだと瞬時に感じ取った。  もっと腹の腑の底から、凍えきった感情が()のように跳んで来たからだ。  二人が振り返った先に、戸口で、 心底軽蔑しきった眼で二人を凝視しながら、 ——梗介(きょうすけ)が、昏い氷塊のような冷気を立ち昇らせ、佇んでいる。  今の、聞かれたか。 特に、最後の方。  身内が冷めるような怖れをひそかに抱えながら、柚弥は梗介から瞳を逸らした。

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