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第17話 巣作りしたい
「なんたってシグルドさまの初恋のお相手は——」
「こら! マーガレットっ!」
何かを言いかけたマーガレットのことをアリシアが止める。
「リオルさまのご負担になるようなことは言うなと言われているでしょう?」
アリシアに咎められ、マーガレットは「失礼いたしました」とそそくさとホウキを手に取り、話を誤魔化すように家の掃除を始めた。
ふたりの話を聞いていて、リオルはぐるぐると思考を巡らせる。
もしかしたら自分は大きな勘違いをしている、ということはないだろうか。
シグルドは、リオルが思っている以上にリオルのことを大切に思ってくれている……?
でも、もしシグルドがリオルを愛してくれているのならば、どうしてヒートのときにいつもおいてけぼりにするのだろう。
シグルドの気持ちがわからない。シグルドはリオルのことをどう思っているのだろう。
政略結婚で仕方なく結婚した相手、幼馴染、それとも可哀想なオメガだと同情しているのだろうか。
明日シグルドが帰ってきて、時間があれば少し話をしてみようか。
今まではシグルドが怖くて話をすることを極力避けてきたが、シグルドとゆっくり話がしたいと思った。
遠い遠い昔のことを、シグルドは今でも覚えているのだろうか。
ふたりの侍女に「おやすみなさい」をして、リオルは寝室に入った。
今日はシグルドは帰って来ない。つまり、巣作りチャンスだ。
リオルはシグルドのワードローブの扉を開ける。そこにはズラリと並ぶ魅力的なシグルドの洋服たちが収められている。
いそいそと服を取り出してベッドに並べていく。
今日はどうしてもシグルドを感じながらいい夢がみたいと思っていた。
シグルドがいるときには巣作りできないので、無性に巣作りをしたい今日に、シグルドが夜警の当番だなんて幸運だ。
ふとシグルドの王立学校の制服が目について、そっと匂いを嗅いでみる。
うん。とてもいい匂いがする。甘くて優しくて、リオルの大好きな匂いだ。
あとで綺麗に戻しておけば大丈夫だろうと制服も手に取りベッドの上に置く。
材料を集めたところで巣作り開始だ。
幸いベッドは大きいから、まあるい巣が作れる。服の並べ方ひとつとっても、リオルのこだわりがあるから丁寧に丁寧に作り上げていく。
「あぁ、気持ちいい……」
苦心の末作り上げたまんまるの巣の真ん中に侵入する。
ここは天国だ。まるでベッドの上で、シグルドの腕の中に包み込まれている気分になる。
目の前にある服を抱き寄せて、匂いを嗅ぐ。上位アルファのシグルドのフェロモンは極上の香りがする。こんな最高のフェロモンを浴びせられたらどんなオメガもシグルドの虜になるに違いない。
「シグルド……好き、好き、大好き」
本人には言えないから、代わりにシグルドの洋服に本音をぶつけてぎゅっと抱き締める。
ああ、たまらない。どうしてこんなに心地よく思うのだろう。シグルドが上位アルファだからだろうか。それともリオルがシグルドに好意を寄せているからだろうか。
「……うん?」
抱き締めていた洋服からバラバラと何かがこぼれ落ちた。どうやらシグルドの王立学校の制服のポケットに何か入っていたようだ。
それらを見て、リオルは飛び起きて目を見開いた。
シグルドの制服から出てきたものは、リオルの見覚えのあるものばかりだ。
幼い頃、リオルがシグルドに贈ったガラス玉。ふたりで課外授業の思い出にと持ち帰った夜に光る鉱石。「ずっと一緒にいよう」とシグルドが用意してきて、互いの指にはめた子ども用のオモチャの指輪。
全部、ふたりの大切な思い出の詰まった品物ばかり。
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