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第22話 落ち着かない旦那さま
シグルドとの誤解が解けてから数ヶ月が過ぎた。
今日のシグルドは朝からずっとソワソワしている。家の中を無駄にうろついてみたり、植木鉢の花に何度も水をやったり、何かをせずにはいられない様子だ。
こんなに爽やかな陽気の朝なのに、シグルドは実はかなりの心配性なのだろうか。
「シグルドさま、もう少し落ち着いたらどうですか?」
侍女のマーガレットにまで突っ込まれているが、シグルドは「でも落ち着かないんだ」と、どこか浮 ついたままだ。
「リオル、体調はどうだ?」
「えっ? それを聞かれるのはもう三度目だけど」
思わず笑みがこぼれる。いつも冷静で、隙のないようなシグルドがこんなに挙動不審になっている姿がおかしくて仕方がない。
「こ、今夜あたりか? ヒートは……」
「多分……前回のヒートから今日でちょうど三ヶ月だし、今日か、明日か……」
「きょ、今日がいい。明日まで待ちきれない」
シグルドとは前々から次のヒートが来たら番になろうと話をしている。それと、ヒートの期間中はふたりで寝室に籠 ろうと約束している。
だからシグルドは落ち着かないようだ。
「騎士団長には、以前から七日間の休暇をもらうことになると伝えてある。それが今夜からになりそうだと騎士団長に、つ、伝えても大丈夫だろうか」
「七日間も休んで大丈夫なの?」
アルファがそばにいてくれるなら、二~三日いてくれれば十分だ。
わざわざ仕事を休まずとも、帰ってきて夜だけ抱いてくれれば、昼間はひとりでも耐えてみせる。何度かアルファに抱いてもらえれば、なんとかなる。
そのような内容のことをシグルドに言って聞かせたのに、それでもシグルドは七日間休むと言って聞かなかった。
「当たり前だ。この世にリオルのヒートよりも最優先することなどあるものか。絶対にそばにいる。ひとりになどしない」
真面目な顔をして言うシグルドがおかしくてふふ、とリオルは笑ってしまった。
誤解とはいえ、シグルドはあんなに頑なにヒートのときにリオルと一緒にいることを避けていたのに。
「なぁ、リオル。ヒートを早めるにはアルファとの接触が多いほうがいいと聞いたことがある。だから今、ちょっと抱き締めさせてもらってもよいか?」
「えっ? 今ここでっ?」
マーガレットもアリシアも見ている前なのに!
気持ちを通わせてからのシグルドの愛は重い。ところ構わずリオルを抱き締めようとするクセをなんとかしてほしい。
「わっ!」
問答無用で、シグルドの腕の中に閉じ込められる。
シグルドからはすごくいい匂いがする。頭がクラクラしてしまいそうな、リオルの好きな匂いだ。
「ど、どうだ……?」
「あ、あの、とっても気持ちいいです……」
なんて答えればよいのかわからず、率直な感想を述べてしまった。
「そうか……ど、どうだろう、何か感じるものはあるか?」
「感じるもの……?」
「ほら、熱くなるとか、身体がうずうずするとか。お、俺もよくわからないがそういう類いの……」
「ええっ?」
恥ずかしくて、ブワッと顔が熱くなる。
シグルドに抱かれてドキドキする。シグルドの体温を感じてあったかいと思うし、ほのかに香るシグルドのフェロモンはこの上なくいい匂いだ。
正直、下半身だってピクッと反応しかけている。
でも、このことをシグルドに言葉にして伝えるのは……。
「効果なし、か……」
残念そうな様子でシグルドが離れようとするから、咄嗟に「待って!」とシグルドの身体にしがみついてしまった。
「き、きっと時間が短いとダメなんじゃないかな。あ、あと少し……ぎゅっとしてくれたら……」
リオルが抱擁をねだると、すぐにシグルドの腕が伸びてきて、抱き締められた。
リオルがシグルドを望めばいつだってそれに応えてくれる。そのことが嬉しくて仕方がない。
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