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第21話 リオルの想い

「僕はシグルドに抱かれて、すごく、う、嬉しかった……よ?」  言ってて恥ずかしくなるが、なんとかしてシグルドの誤解を解きたい。 「嬉しくて泣いたんだ。気持ちがよすぎてどうにかなりそうだった。シグルドだったら、こんなに気持ちよくなれるものだったら、毎日抱かれてもいいなって、思ったんだ、けど……」 「俺に貫かれて怖かったんじゃ……」 「怖いことなんてなかった。シグルドは優しかったし、僕はシグルドと繋がれるなんてって嬉しかった」 「嘘だろう? よかった……のか?」 「う、うん……すごく、感じちゃって……」  だんだん顔が熱くなってきた。こんなことを言うなんて、淫乱オメガみたいだ。 「そっ、それに、シグルドとのあいだに子どもができても、契約金を手に入れても、僕は離婚なんて考えてないよ?」 「だって俺の家からリオルの実家に金が支払われたら、お前は俺と一緒に暮らす理由も意味もなくなるだろ? 愛してもいない俺と、そんな男とのあいだにできた望まない子どもなんて置いていなくなるに決まってる」 「……愛してる。愛してるんだ」  リオルはシグルドの顔をまっすぐに見上げた。 「好きです、シグルド。政略結婚だったけど、僕も相手がシグルドだって知って二つ返事で結婚したんだ。シグルドが許してくれるなら、ずっと一緒にいたい……」 「実家に帰れなくてもいいのか? だってあの手紙は……」 「あれは早く子どもを作れって何度も急かされていただけで、僕から帰りたいなんて一度も言ってないよ。僕は、シグルドと一緒がいい……」  シグルドはリオルの言葉を聞き、「本当か?」とリオルの両肩をがしっと掴んだ。 「じゃあ、子どもができてもリオルは俺と離婚せずにここにいてくれるのか?」 「はい」  リオルは力強く頷く。そのとおりだ。シグルドに捨てられることはあっても、自分から離婚を言い出すことはないと思っているのに。 「リオルは俺との行為が嫌ではない?」 「は、はい……」  ちょっと恥ずかしいが、ここは正直に答えておかないと。シグルドがまた変な誤解をしたら大変だ。 「リオルの身体をいやらしく触って、あらぬところに口づけして、俺のモノで奥まで貫いても、気持ちいいと思ってくれるのか?」 「はいいっ?」  言うことが具体的過ぎるだろと突っ込みたくなるが、シグルドはこれ以上ふたりのすれ違いが起きないように『行為』の内容をはっきりと確認しておきたいのかなと思い、「し、してもいいよ」と答えた。 「リオルは、俺のことが好き?」 「えっ!」  流れで「あ、はい」と答えそうになったが、ずっと隠していた本音を適当に流すわけにはいかない。  ひと呼吸おいて、目の前にいる夫を見つめる。  蒼翠色の瞳も、プラチナブロンドの髪も、整った顔も耳の先の形まですべてが大好きだ。 「好きです」  リオルは手にしていたオモチャの指輪をシグルドに見せる。 「これと同じものを、今でも持ってるよ。シグルドに会えなくなってもずっとシグルドのことを考えてた。没落した家のオメガにはシグルドに会う資格もないんだと諦めてたけど、でもずっと……好きだった……」  好きな人に、好きと伝えることがこんなに難しいことなんだと思い知った。  出会って、離れて、政略結婚して、遠回りをしたけど、今やっとまっすぐに目を見て伝えられた。 「俺も、俺もずっとリオルが好きだ。会えなくなっても街角でリオルがいないかとリオルの姿を探して、何度お前に会いたいと思ったことか。そんなとき、リオルとの結婚の話を聞いて、俺は、もう……」  シグルドは感極まった様子だ。美しい蒼翠色の双眼が愛おしそうにリオルを見つめている。  こんなにしっかりとシグルドと向き合ったのは結婚してから初めてのことだ。  どうせ政略結婚だから、愛されないと思っていた。  でも今ならわかる。シグルドの優しさの数々は全部シグルドの本物の愛情で、シグルドは家柄が欲しいと躍起になってリオルに優しくしていたわけではなかった。  リオル自身を欲してくれて、心からリオルのことを愛してくれていた。 「リオル……好きだ」  おもむろにシグルドの唇がリオルの唇に近づいてくる。  リオルが目を閉じると、シグルドの優しい口づけが落ちてきた。  結婚の誓いのときの、形式ばった偽りのキスなどではない。本当の、互いの気持ちを確かめ合うためのキスだ。  たまらなくなってリオルが口づけを返すと、シグルドは強くリオルの身体を抱き締めてきた。 「政略結婚だったけど、俺はリオルのことが大好きだ。結婚したとき、リオルを絶対に離さないと決めたんだ」  シグルドの熱い抱擁に胸がじんとなる。まさかシグルドにこんなに愛されているとは思いもよらなかった。 「政略結婚だったけど、僕も、僕もシグルドが好き。シグルド、離さないで……」  リオルがシグルドの身体にしがみつくと、シグルドは強く、強く抱き締め返してきた。  リオルはその力強い抱擁にうっとりして、しばらくのあいだシグルドから身体を離さなかった。

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