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第20話 誤解

「リオルをどうしても失いたくなかった。ヒートのときにリオルのそばにいたら、俺は間違いなくリオルを抱く。リオルは俺の初恋で、今も昔も大好きで、ずっと気持ちを寄せている相手だ。そんなリオルが目の前でヒートを起こすさまを見て、アルファの俺が耐えられると思うか? 絶対に無理だ。ラットを起こしてリオルを抱き潰すに決まっている」 「抱いて、くれてよかったのに……」 「ダメだ。そうなったら俺たちのあいだに子どもができる。子どもができたらリオルは契約金を手に入れて、即刻、俺と離婚するだろ? それが嫌で、仕方がなかった……」 「えっ?」  シグルドから思ってもみないことを言われて思考が停止した。  なんで子どもができたらリオルが離婚するなどと考えたのだろう。 「リオルと結婚してわかった。好きな人と結婚できたと浮かれてたのは俺だけだったんだ。リオルは、この家に来てから憂鬱そうな顔をして、溜め息をつきながら実家と手紙のやり取りをしてばかりだった」 「あれは実家のほうから勝手に手紙をどんどん送ってくるから、僕が返事を書いていただけで……」 「申し訳ないが、リオルの実家からの手紙を盗み見たんだ。そこには『子どもを産むまでは実家に帰ってくるな。ひとりでも産めば契約金が手に入るからその後離婚しろ』と書いてあった。つまりリオルは、実家に帰りたいから、ヒートのときに俺に抱かれようとしたんだろう?」 「あの手紙を見られてたなんて知らなかった……」  実家からの手紙は、いつも子どもとお金の話ばかりだった。『子どもはまだか』『契約金さえ入れば安泰だ』『離婚は契約金受け取りを確認してからにしろ』などなど、はっきりと下世話なことが書いてあってカモフラージュするなどの工夫も何もなかった。  あんな内容を見られたらシグルドに勘違いされるに決まっている。 「政略結婚だもんな。金さえ手に入れば目的は達成される。リオルは俺と生まれてきた子どもをこの家に置きざりにして離婚するに決まってる。あの手紙を見て、リオルは無理矢理俺と結婚させられたんだとはっきり悟ったんだよ」 「なんで……? そんなことないよ」 「だってリオルは初めて俺が抱いたときに泣いてたじゃないか。仮にも俺は夫だから、嫌でも抵抗できなかったんだろ? 大人しく俺に抱かれて、でも涙は堪えきれずに辛くて泣いて……。泣くほど苦しかったんだよな。あのとき俺はバカみたいにリオルに夢中になってたからリオルが泣いてることに気がつかなかったんだ。最後まで行為をしたあと、やっと気がついて、もう二度とリオルに手は出さないと心に誓った」 「そんな……」  シグルドはあのときの涙の意味を勘違いしたのだ。  初めてシグルドに抱かれたとき、リオルはアルファとオメガのそういう行為の知識がまったくなく、シグルドにされるがままになっていただけだし、涙を流したのだって、感極まって泣いてしまっただけだ。 「リオルを抱けなくてもいい。それでもいいからそばにいてほしかったんだ……」  シグルドは子どもができたらリオルが離婚すると思っていて、ヒートの期間にわざと外出していたのだ。子どもを作らないために。  ヒート期間以外にリオルを抱かなかったのは、最初の行為のときにリオルが嫌がったと思ったため。  全部、リオルと一緒にいるためだったのだ。リオルを想うがゆえの行動だったとは思いもしなかった。

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