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第30話 政略結婚のはずなのに

「リオルっ!」    シグルドは巣の中に飛び込んできて、リオルを勢いよくガバッと抱き締めてきた。  シグルドとふたり、リオルの作った巣の中で抱き締め合う。  これこそリオルが求めていたものだ。シグルドと一緒に巣の中に入ってイチャイチャしてみたかった。   「リオルの作った愛の巣に誘われて、断るわけがない。リオルは巣作りが上手なんだな。ここはとても居心地がいい」  シグルドに巣を褒められて、リオルはつい顔が綻ぶ。  これからは、もう巣作りを我慢しなくていいようだ。シグルドが喜んでくれるなら、シグルドの前でも心置きなく巣作りできる。 「俺に甘えてくるリオルはたまらないほど好きだ。こんな可愛い妻を娶った俺は幸せだな。リオル、俺と結婚してくれてありがとう」  シグルドはリオルを愛おしそうに見つめてくる。 「僕たちの結婚は政略結婚なのに」  リオルはふふっと笑う。 「そうだぞ、リオル。これは政略結婚だ。俺とリオルは、お互いの家の存続のために仲良くしなければならない。だからリオルはもっと俺に甘えてくれ。俺にできることならなんでも叶えてやる」 「う、うん……」  シグルドは政略結婚をたてにして、リオルをさらに自分に甘えさせたいと思っているようだ。 「俺もふたりきりのときだけでなく、誰かが見ている前でもリオルと仲良くすることにする。俺たちの仲の良さを見せつければ、両家のためになるのだからな」 「えっ? そ、そうなのっ?」  それはどうだろう。  そこまでやらなくても、今のままで十分なのではないかとリオルは思ったが、シグルドはどうやら外でも仲良しを見せつけたいようだ。 「そうだぞ。だからリオルも覚悟しておけ。俺が人前で何かをしても恥ずかしがらずに受け入れるのだぞ」 「えぇっ!」  シグルドと仲良くしていれば不仲の噂は立たなくなるかもしれないが、今度は反対にシグルドの熱愛を噂にされてしまいそうだ。 「ああ、可愛いな。リオルの何もかもが可愛い」  シグルドは壊れやすい宝物に触れるようにしてリオルの頬に手を這わせた。  シグルドの優しい手に触れられると、とても心地がいい。大袈裟かもしれないが、シグルドに触れられれば触れられるほどシグルドを好きになる、そんな感覚がする。 「今度シグルドは社交界に初めて参加しないといけないね」  平民のシグルドの家は家柄を欲していた。  王族、貴族ばかりの社交界でもシグルドの名はすでに知られているから、シグルドは注目の的になるだろう。リオルも最大限の手伝いはするつもりだが、きっと社交界デビューはうまくいくに違いない。 「リオルは俺の子を産まないといけないな」  リオルの家はシグルドの家からの契約金を欲している。契約金を手に入れるためには、リオルはシグルドの子を身ごもって産まなければならない。 「できるだけたくさん産んでほしい。そのための努力なら俺は惜しまない」 「えっ? たくさん……?」  シグルドはいったい何人子どもが欲しいと思っているのだろう。 「夜泣きだって俺が面倒をみる。リオルに負担のないよう乳母と教育係を雇おう。俺にとっての一番はリオルだが、子どもたちは二番目に愛すると約束する」  シグルドはリオルの腰を抱いて、自分のほうへと引き寄せた。  シグルドに熱を持った視線で見つめられ、リオルの胸はドキドキと高鳴っていく。 「リオルが懐妊したら、父上に報告しないとな。子どもの誕生を今か今かと待ち構えているのだ」 「僕の父上と母上、兄弟たちもです。子どもはまだかってうるさいくらいに手紙を送ってくるから」  もしリオルがシグルドの子を孕んだら、みんな大騒ぎすることだろう。両家は子どもの誕生を首を長くして待ち望んでいるのだから。   「リオル。お喋りはこのくらいにして、そろそろ子作り始めても、い、いいか……?」  少し頬を赤らめながらもシグルドの手はがっちりとリオルを抱いて離さない。 「はい」  リオルが頷くと、すぐにリオルの唇にシグルドのキスが落ちてきた。  こんな幸せな七日間なら、毎月迎えたっていい。  リオルは幸せの巣に包まれながら、何度も何度も最愛のアルファの夫と口づけを交わした。  その後、シグルドに巣の中でめちゃくちゃに愛されて、喘がされて、自らシグルドを巣に誘ったことを後悔することになろうとは、リオルは思いもしなかった。  ——完。

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