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第1話
「年をとるのもいいもんだ」
人のケツの穴にナニを突っ込んで言うことでもないだろうジジイ。
思うばかりで声などろくに出やしない颯太 である。
「あん……うぐっ、ふっ……ゔぁ……」
って、これはもう合いの手というかジジイの抜き差しに合わせて口や鼻から漏れる息。
デニムもパンツもずり下げられて屹立したペニスからは悦び汁が漏れている。もう何回目かわからない。
「イッ、ク……出、やっ、もう……あっあっ……!」
背後から抱かれて、颯太の両手は手摺りを握り締めたままである。
励ますようにジジイが擦るペニスから、白い液が放たれて街灯の明りにきらきら光って闇に落ちた。
線路沿いの高台に桜並木で有名な遊歩道がある。終電が終わり丑三つ時も過ぎ、今は人影もない。
背後にあるのは大学である。チャペルやビルの学び舎も今はただ黒々と立ちはだかる壁でしかない。街灯が照らし出すのは、土手の手摺りに摑まってつながっている二人の男の影だけである。
桜の枝にはまだ蕾ばかりである。気の早い花がほんの少し開いている。
「終電に乗り遅れたのかい?」
見知らぬジジイに声をかけられたのだ。
きちんとネクタイを締めたスーツの上にスプリングコートを着ているのは、この辺の会社に勤めるサラリーマンだろうか。まさか向かいの大学で教える教授ではなかろうな。
髪は見事なまでに真っ白だった。近寄ってよく見れば、顔には皺もシミもある。まごうかたなきジジイである。
「私も軽く一杯のはずが終電を過ごしてしまったよ。今日が最後のご奉公だったのに」
と手にした花束を差し出される。反対側の手にはブリーフケースが下げられている。
「君にあげようか?」
「いや……」と颯太は呟いて後ずさった。
定年退職祝いの花束などもらっても困るだけだ。
「昔はこの土手もこんなに整備されていなかったよ。雑草だらけで。若い頃は夜ここでまぐわえば、蚊や虫に刺されてえらい目に遭ったもんだよ」
「まぐわうって……」
「まあ、アレだ。昔は青カンと言ったな。今は何というのかな? アウトドアセックス?」
別に〝まぐわう〟の意味ぐらい知っている。これでも読書量は人並み外れているのだ。
寒いからと肩寄せられて、始発までの時間つぶしに話を始めたはずなのに、何故まぐわうことになったのかよくわからない。
「私も昔東京の大学に通っていたんだよ……いや、ここじゃないがね」
と背後に黒々と建つ学舎を示す。
「東京の端っこの横浜に近い場所でね。地方から上京して学生寮に入った。鉄筋コンクリートの四階建て。部屋は十二畳の和室で四人部屋だ。四隅に陣地を取るわけさ。机だの箪笥だの置いてな。押し入れがあって夜になると布団を出して敷くわけさ」
「昭和ですね……」
「まあ、昭和にしたって時代遅れ過ぎたよ。学生には人気がなくて空き部屋も多かった。四人部屋のはずが二人しか入らなくて。逆に部屋は広く使えてよかったけどな」
もう一人の学生が入学式が終わっても入寮しなかったという。荷物だけは先に届いていたから、上がり框の入り口近くにそいつの机や箪笥を置いて、ジジイは奥の良い場所を取ったと言う。
「相方が来たのは五月の連休が終わる頃だったかな。桜の花が咲いて春雨がそれを散らして、やがて梅雨に入る……そんな時季だった」
と桜を見上げるジジイにつられて颯太も顔を上げた。
「若い頃は季節の移ろいなんか気にもしなかったのに。おかしなもんだな……」
遊歩道の奥まで連なる木々には蕾が揺れるばかりだった。
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